法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』最強!ころばし屋Z

今年度の映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』の公開直前スペシャルとして、映画にも登場する「ひみつ道具博物館」や「ころばし屋」が出てくるアニメオリジナルストーリー。
素材になった原作「ころばし屋」は、リニューアル初期にアニメ化されており、かなり作画や演出が良かった。しかも今年度映画の寺本幸代監督がコンテ演出をつとめていた。その流れで今回の素材に選ばれたのかもしれない。
いつものSP回のように脚本は水野宗徳で、コンテ演出は今井一暁作画監督は田中薫という布陣。


導入部では、未来社会と現代社会をカットバックしながら、「ころばし屋」と「ころばし屋Z」がのび太を標的にするまでを描く。映画的な物語構成がこぎみよい。
現代社会パートは、ほぼ原作の流れを踏襲。そこに少しずつ今回の物語にあわせてアニメオリジナル設定を混入している。
未来社会パートでは、映画ロケの情景が現代と大差なかったり、未来なのに物価が変わらず十円玉が使われていたり、SF考証としては甘いところもあった。しかし、あくまで導入部なので許せる範囲。タレント声優の演技も、自身をモデルとした映画俳優を演じることで、まずまず聞ける声だった。


中盤、同じ標的をもった秘密道具が、それぞれのプライドをかけて衝突することとなる。標的以外は巻きこまない「ころばし屋」と、全てをなぎたおすように目的をとげる「ころばし屋Z」。
たっぷりの枚数を使った背景動画で、バトルが描かれる。作画は粗いが、ダイナミックにカメラを動かす演出が楽しい。いつもの住宅地を舞台として、小さな秘密道具が高速移動するというシチュエーションの面白味もある。
戦いの決着で、ダメ押しのように電柱が倒れることで、住宅地という舞台がいっそう実在感を高める。


そして終盤、のび太ドラえもんは廃工場で「ころばし屋Z」を待ちうける。
黄昏にそまった色調で、細かく描き込まれた背景美術が美しい。煙エフェクト作画も立体的で巧く、ゴム風船のような独特の質感が面白かった。
廃工場という舞台を利用した頭脳戦や、ボロボロになった「ころばし屋」がプライドだけで動く姿、中盤のアクションが伏線となった最終決着まで、アクション娯楽として充分に楽しませてくれた。


感動っぽい雰囲気を台無しにするオチも、まずまず悪くなかった。中編しか尺がないので、アクションを優先するなら、深いドラマは必要ない。
あと、追跡者の片方に途中から助けられる展開で、のび太がハリウッド映画に出てくるヒロインにも見えてきた。実際、物語の構造をとりだしてみると、全体としてもアクション映画の定石をきちんと守っている。