法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』空想動物サファリパークと約束の笛

どら焼きを買うためにアルバイトを始めたドラえもん。サブというベテランスタッフの指導を受けながら、必死に走りまわる。
そのアルバイトで獲得したチケットをもって遊びにきたのび太たちだが、おかしな行動をとる二人組の客を見かけて……


『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』を宣伝するオリジナル中編。スタッフは、水野宗徳脚本、楠葉宏三コンテ、今井一暁演出、田中薫と三輪修の作画監督
原作エピソードは2009年にもアニメ化されたが*1、幼い視聴者のためにもあらためて紹介するエピソードは必要だろう。ドンブラ粉などの映画で登場する秘密道具も違和感なく登場させて、うまく宣伝と物語を両立させていた。
映画企画で応募された空想動物も端々に登場。うまく選んでアニメデザインしたのか、統一感を崩すことなく、適度な存在感があった。
さらに結末で、高く空中にほうりあげられてオチとなったドラえもんが、そのまま映画館の観客席に落ちてきて映画紹介が始まるという、物語と宣伝をスムーズにつなげる。映画紹介は見せ場を明かしすぎていると感じたが、さすがに最大のサプライズは隠しとおしていた。


さて物語そのものだが、未来世界を舞台にしているため、現代と変わりなさすぎる物語に違和感がないでもなかった。
たしかに秘密道具を使っていいなら、そもそもパークがアルバイトを使う必要はないだろう。しかし使ってはならない理由を精神論だけで説明されても納得できない。そもそもドラえもん自体がロボットだ。客の勝手な行動をふせぐためとか、パークの環境をつくる機械が秘密道具と機能衝突を起こすとか、秘密道具に機械的な制限をかける理由を考証することもできたはず。
アルバイトを終えたドラえもんが、個人的な興味で給料をもらえずとも空想動物を見守る仕事をつづける展開も、いわゆる「やりがい搾取」の問題に通じる。そこはちゃんと残業代は出すという描写を入れるべきだったと思う。水野脚本は、人情劇としては悪くないのだが、それゆえに社会観が古すぎると感じることが多い。
それに人工的につくった空想動物であれば、それをわざわざ密猟する意味も薄いので、そこは説明がほしかった。空想動物を生んで育てるには法律的な制約が厳しく、ていねいに飼育した成獣は高値でとりひきされているとか、映画の設定を反映させながら説明することもできたろう。
作画は良くて、最初にドラゴンが火を噴く場面が特に印象的。しかし楠葉総監督のコンテは、人物を真横から映す平坦な構図ばかりで、作画の良さを活用できていないとも感じた。