法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「小説家になろう」でランキングにのっていない面白い作品

小説投稿サイト「小説家になろう」で人気を集めている作品の傾向に、現実の世界から異世界に呼ばれた主人公が活躍するというところがある。
http://yomou.syosetu.com/rank/top/
その異世界も、「VRMMO」と表記されるオンラインゲームと仮想現実を組み合わせた舞台か、和製欧風ファンタジーを舞台としていることが多い。「SF」とタグがついていれば前者、「ファンタジー」とタグがついていれば後者、と思えばだいたい的中する。
たまに和風ファンタジーや、いわゆる仮想戦記や歴史小説に区分されるような舞台を選んだ作品もある。一方でラブコメはランキングにあまり乗らず、ファンタジーが衰退している現在のライトノベルにおけるジャンル人気とは差異があるようだ。
ただし、召喚される側の立場が救世主ではなかったり、持ち合わせている能力が特殊だったりと、様々な変化は見いだせる。似たような作品しか人気を集めないというよりも、異世界召喚というジャンルそのものが人気を集めているというべきだろう。
とはいえ、もっと異なったジャンルの面白い作品も読みたいところ。異世界召喚はジャンルそのものが人気らしくて評価に下駄を履かされているためか、絶賛されている作品を読んでも、アマチュア作品と思ってさえ玉石混交すぎる感がある。


そこで探してみると、掌編や短編に分類されるようなSFで、けっこう本格的なものが見つかった。
個人的に、下記の作品がまとまっていて楽しめた。
http://ncode.syosetu.com/n9511t/

こわれゆくせかいにもりゆうをようきゅうするりろんしゅぎしゃの馬鹿者はいますぐごみばこへかえれ。げいじゅつとはりかいのはんちゅうをこえたじげんにそんざいするものであってけっしてゆいぶつてきなかいしゃくをもとめてはいけないのであるときづけない痴れ者はてんごくでせいざをするべきだ。とけいをこわすとはそういうことなのであると無知蒙昧な阿呆はしゅちょうした。

メインタイトルやサブタイトル、上記の作者による解説から敬遠してしまいかねないが、実際は「書ける」人がわざと崩しているらしく、けっこう読みやすい。
序盤で早々に明かされるので内容を書いてしまうと、ループするように時間移動をくりかえすSFだ。謎の男から過去へ移動できるタイムリープ能力を与えられた主人公が、徐々に混沌としていく状況にのみこまれていく。
小さな時間移動で全世界的な破局が訪れるSFは先行作品が多々あるが、この作品で混沌が発生するロジックはなかなか面白い。ほんのささいな、読みすごすような出来事が、とんでもない事態を引き起こしていく説得力と、その破局が進行していくイメージの絵になる壮大さは比類なきもの。検索した限りでは、前例となるSFが見当たらなかった。
かなり混沌とした内容だし、主人公の視野はせまいままだしで、SF考証のつじつまがあっているのかどうか不安だが、その不安感がまた作品の面白味につながっている。


また、地に足のついた舞台で、部活動やスポーツにのめりこむ若者を描いた作品も意外とある。
異世界召喚物は個人サイトで発表しても読者を集められるだけに、ランキングに乗らなくても個人サイトよりは読んでもらいやすいだろうという理由で投稿されているのかもしれない。下記のように、電撃小説大賞の三次選考を通過したという長編小説も投稿されていた。
http://ncode.syosetu.com/n7740y/
さすがに三次選考を通過したとあって、かなり文章が読みやすい。
個人的に気に入った作品としては、ゲーム対戦を扱った下記を紹介しておく。主人公の鬱屈ぶりも面白い。
http://ncode.syosetu.com/n4015l/

PCフリーソフトマインスイーパ』に傾倒する大学生、鮒木。恋敵、銀崎への屈折した思いから始まった挑戦は、ついに彼女を賭けた戦場へと、鮒木を導くのだが──? マインスイーパ(地雷処理ゲーム)を舞台に繰り広げられる、無駄に熱すぎるインドア・バトルアクション。

この種の作品は、どのようにして題材に没入していく主人公に共感できるか、勝負の行方を左右する心情の動きや作戦のアイデアに納得できるかが、評価の要点となるだろう。
まず、主人公のマインスイーパに対する距離感が興味深いもので、やりこみながらも心の奥底では軽視している。序盤から活躍できる能力がありつつ、マインスイーパに対する意識の変化が一種の成長として昇華される。主人公がマインスイーパ対決を始める餌の意味あいが変化し、より純粋にマインスイーパの面白さだけが描かれる。
作戦については、運が左右するゲームであるところを、それなりに納得できる勝負方法にアレンジ。単純なゲームなので複雑な定石ではなく反射神経の勝負となるが、うまく伏線をはってアイデアを入れることで、最終決戦の展開に小説としての説得力と驚きがあった。
この作品の場合、身近な……少なくともインターネットをしている読者の多くは知っているだろう……単純なゲームという題材の選択もうまい。説明を省略して対決展開に持っていきやすいし、複雑すぎないから話のまとまりも良かった。