法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『第9地区』

TVで視聴。かなりカットされているらしいが、それでも噂にたがわぬ傑作娯楽だった。時間がかぶった『鉄人兵団』と比較できるのも面白い。
個々の要素は既存のもので、作るだけなら1980年代にも出来ただろう。上空の宇宙船*1はマット画合成、異邦人はキグルミ、最後のバトルもキグルミや立体アニメを組み合わせれば、映像的にも可能なはず。エイリアンを隔離しつつ共存した社会で、主人公と異星人のコンビが事件を追うという構図そのものに『エイリアン・ネイション』という先例がある。
しかし、様々な作中フィルムを断片的につぎはぎして見せるフェイクドキュメンタリーな導入から、汚らしい生物感まで表現できるようになった3DCG、ボンクラで無力な男がロボットで暴れまわる結末まで、現代でこそ描ける映像の興奮も確かに存在していた。
宇宙人と主人公、どちらも卑小で醜く描かれながら、物語をとおしてきちんと感情移入できるようになる、新人とは思えない隙のない話運びも素晴らしかった。自然に感じられる心の動きを描いているから、数日間を切り取って提示するだけの物語なのに違和感がないし、その後の出来事に思いをはせることもできる。

*1:何もしない巨大宇宙船が浮かんでいる絵面は藤子F短編『いけにえ』を思い出させる。ボンクラ主人公が選ばれて右往左往するテイストも似ているといえば似ている。