法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『大巨獣ガッパ』

1967年に公開された、唯一の日活怪獣映画とされている作品。同年には唯一の松竹怪獣映画とされる『宇宙大怪獣ギララ』も公開され、東宝では『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』が公開され、TVでは初代の『ウルトラマン』が放映されていた。


たまたま今年の夏にGYAO!でおこなわれた日活映画無料配信企画にも選ばれていた。
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そして昨日、その脚本を手がけた中西隆三氏が亡くなられたという。どちらかといえば世界名作劇場の脚本で有名か。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/obituaries/CK2013101002000240.html

 中西隆三氏(なかにし・りゅうぞう=脚本家)9日、肺炎のため死去、81歳。東京都出身。通夜は13日午後6時から、葬儀・告別式は14日午前10時半から、千葉県浦安市千鳥15の3、浦安市斎場で。喪主は長男多門(たもん)氏。
 映画「神田川」「大巨獣ガッパ」、テレビアニメ「フランダースの犬」「小公女セーラ」のほかテレビドラマなどの脚本を手掛けた。


物語は、南洋から子怪獣を日本へつれかえり、とりもどそうとして親怪獣が日本へ上陸して蹂躙するという、よくある展開ではある。
経験のない会社が制作したために、怪獣映画の勘所が理解されていない作品とも評価されてきた。しかし小さな島の出来事に終始した同年の『ゴジラ』や、SF設定は意欲的でも市街地破壊をひとつのミニチュアセットだけで表現した『ギララ』より、ずっと怪獣映画らしい満足感はあった。
同じ日本特撮映画株式会社が手がけ、どちらの尺も90以内なのに、『ギララ』と比べて特撮の精度と密度が段違いに良い。南海の先住民村から、ガッパが上陸する港、破壊される市街地*1、日本の城下町*2、ガッパが隠れる湖、燃えあがる工業地帯、結末の空港まで、多様なミニチュアセットと破壊シーンが楽しめる。
ヘリコプターで子怪獣を運ぶシーンに主観視点のようなカットがあったり、いくつか珍しい構図も楽しめた。制作会社の経験不足が良い方向へ作用したのかもしれない。南海の石像や子怪獣の檻など、俳優とからむ巨大セットも印象的だ。


問題は、全体の牧歌的な雰囲気と、怪獣デザインの説得力のなさ。
子怪獣をつれかえる大人は主人公もふくめて利己主義者しかいないが、『ガメラ対バルゴン』のように暑苦しい物語を展開するわけでもなく、善良な子供にさとされて全員が反省して終わるという中途半端さ。先住民を助けるために米軍潜水艦が活躍するところは、他の怪獣映画には見られない要素で興味深かったが、それが後半の展開にからんでくるわけでもない。
そしてどれだけ他がよくても、結局のところ主役は怪獣なのだ。いくら親子愛を描くためとはいえ、子怪獣だけでなく親怪獣まで優しげな顔つきと体型にしているのはやりすぎだ。体が太めなのに翼が小さすぎて、とってつけたように見えるのも良くない。ただしガッパのデザインはガルーダや烏天狗をモチーフにしており、一定の格好良さはあるので、着ぐるみの体型さえ違っていれば人気のある作品になりえたかもしれない。

*1:しかし選ばれた舞台が熱海という素朴さで、破壊シーンは多いのに牧歌的な雰囲気を作ってしまっているが。

*2:ただしセットを組んだスタジオがせまいらしく、ホリゾントと怪獣の距離が近くて、あるカットでは天井が映ってしまっている。