法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

クライムサスペンスやアクションホラーじゃない、ポジティブになれる韓国映画の5作品

先月のツイートだが、『パラサイト半地下の家族』がアカデミー賞4冠に輝いたのを機会に、これまで見て印象深かった作品をいくつか紹介。
あまり恋愛系は見ないが、それでもあまり陰鬱ではない韓国映画の良作はいくつかおぼえがある。

『カンナさん大成功です!』

全身整形して美女になった主人公をテーマにした、日本の漫画を原作としたコメディドラマ。生活感を重視した原作から、芸能界を舞台に変更し、女性が切り売りされる社会を風刺する。

いくらでも恋愛ドラマに発展できそうな題材だが、芸能で名をあげていく主人公のドラマとして展開。劇中のパフォーマンスや満員のライブ会場など、必要なリソースを投入し、映像の説得力が充分ある。
それでも市街地で追突事故したりガラスコップを素手で砕いたり、韓国映画らしい描写もあるのが面白い。あまり重要でない描写なのに、そつなくこなせているのは、たぶん現場がやりなれているおかげだろう。
『カンナさん大成功です!』 - 法華狼の日記

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『パパは女の人が好き』

トランス女性のラブストーリー。かつて男性として生きることをしいられていた主人公の周囲で、アプローチをかける男性や、疑いをかける警察のドラマが展開される。

パパは女の人が好き(字幕版)

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  • 発売日: 2017/09/08
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LGBTテーマだが、秘密をかかえた美女設定の一種くらいの重みにすぎず、社会問題として掘りさげるほどではない。良くも悪くもライトな恋愛映画として楽しむべき作品だ。
ただ、そんなライトな作品だからこそ、絵作りの良さがきわだつ。シネマスコープで映される遠浅の情景は美しく、かんちがいから生まれるコメディ展開とのコントラストを強める。
主人公へ疑いをかける警察も、やってることは道化師でしかないのに、アクションは充実。これまた韓国映画らしく廃車展開になったりして、状況の無茶苦茶さもふくめて大笑い*1

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韓国映画らしさといえば、ジャンルのわりに性的なサービスシーンの少なさもある。思えば廃車は、裸体や流血の刺激にたよらず、派手な映像を作りだせる。世界展開するにおいて、規制を逃れやすい効果もありそうだ。

『裸足の夢』

実話にもとづくスポーツ映画。内戦のつづく東ティモールで、ひょんなことから元サッカー選手が現地の少年を指導することになり、変化していく姿を描く。

裸足の夢 [DVD]

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  • 発売日: 2014/05/02
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感想としては以前にエントリで書いたとおり。
『裸足の夢』 - 法華狼の日記
これに限らず、韓国は意外と堅実なスポーツ映画が多い。必要充分に描かれた登場人物の背景が感情移入をさそい、試合の推移はきちんと映像でわかるように演出できている。
見ていればティモールの少年たちを素直に応援したくなるし、チームがまとまって世界大会に出られただけでも達成感があるので、物語を成立させるため勝利するとは確信できない。試合で手に汗を握る条件がそろっている。
最終的にティモールチームは日本チームと戦うが、けして対立でナショナリズムをあおらない。協力者のひとりは好人物の日本人だし、逆に主人公は主要登場人物で最もゲスい。美談が鼻につかないバランス感覚。
内戦の描写を資料映像ですまさず、短いながら主人公を巻きこむ描写があるあたり、韓国映画界の地力も感じさせる。

『パイレーツ』

朝鮮建国時に国璽が紛失した事件をめぐる、2014年の大作アクション。海賊と山賊と国軍が三つ巴の戦いを展開する。

国史劇らしく序盤はシリアスで、特に海賊の反乱劇などは陰鬱な物語に展開しそうな予感がある。しかしドジでマヌケな山賊の介入から雰囲気が変わってくる。
どれほど陰惨な物語でもブラックな笑いを入れるのが韓国映画だが、この作品はコメディがシリアスなドラマを侵食し、深刻な問題を笑い飛ばしていく。
広大な市街地を巨大な水車が蹂躙していくVFX描写は、スピルバーグ作品のような稚気にあふれている*2

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同時に、コメディ全開時のスピルバーグ作品ほど単調ではなく、シリアスをつづける海賊が物語をひきしめる。明るすぎず暗すぎず、アクションとVFXを楽しむ娯楽としてバランスがいい。

『提報者 ~ES細胞捏造事件~』

2005年に発覚したES細胞捏造事件をモデルに、真相をあばいたテレビ局の視点で2015年に映画化。真実を追求しつづける大切さを正面からうたう。

捏造の発覚前までは、ノーベル賞の可能性も語られていた医療技術。そのため主人公側を非難するナショナリスティックな蝋燭デモがまきおこったりする。
しかしデモを単純に衆愚として描いたりはしない。多くの参加者は愚かだったとしても、先端技術に期待をかけずにいられない存在を印象づけ、捏造の罪深さを実感させる。
モデルの事件がそうだったように、捏造者にひとかけらの真実があったことも重要。嘘つきの主張はすべて嘘という先入観が主人公の足をすくい、捏造者の動機を暗示もする。内部告発者の生活も少しずつ崩れていき、スクープが成功した事件と知って鑑賞しても、サスペンスが持続する。
ちなみに、愛犬家に必見の映画でもある。犬の演技や演出が見事なことはもちろんだが、愛犬家が向きあうべき情報が示され、倫理の問題がつづいていることを明らかにする。


他にも韓国現代史をひとりの半生記に重ねた『国際市場で逢いましょう』*3など、VFXを活用した感動大作なども韓国映画にはある。
そうした作品を見て感じるのは、必要充分な絵作りができていること。邦画は大作であっても、部分の粗が目につくことがある*4韓国映画のセットやVFXは必ずしもハイレベルではないのだが、一定水準から落ちない良さがある。

*1:1時間33分50秒。

*2:予告30秒ほどで確認できるが、本編での描写は異様に長い。

*3:『国際市場で逢いましょう』 - 法華狼の日記

*4:あえて3DCGの質を落として着ぐるみのような雰囲気に統一した『シン・ゴジラ』でも、第二形態から直立した第三形態へ変わる場面の、皮膚が波打つ描写だけはCG臭さを感じた。