法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』子犬イチの国 キズナ編

原作短編「のら犬イチの国」をふくらませ、前後編にしたてた話の前編。動物と感動とSFがつまった物語で、原作短編としては頁数が多く、作中時間も壮大なためか、リニューアル前も話をふくらまして長編映画化された。このことは番組公式サイトもでくわしく記載されている。
http://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/contents/topics/backnumber/0227/top.html

タイトルを見て、「おぉっ!?」と思ったドラえもんファンも多いはず!
そう、“イチ”といえば、2004年公開の大ヒット映画『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』に登場したキャラクター!!

来週から2週にわたっておおくりする『子犬イチの国』は、その『のび太のワンニャン時空伝』の原案になった、ドラえもん大長編コミック『のら犬イチの国』に、“新たな展開”をまじえてアニメ化したものなのです!

リニューアル前では最後のドラえもん映画となった『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』は子供っぽい名前に反して、なかなか完成度の高いタイムスリップSFだった。スタジオジブリのアニメーターが参加していたり、クライマックスのアクションには特別なスタッフをたてたり、アクションアニメとしての見所も大きい。
今回も腰繁雄が絵コンテを担当し、コメディチックな演出は極力抑えつつ、現在や過去でのできごとをていねいに描いていく。特に犬や猫とともに育っていく日々をじっくり見せるAパートが良かった。作画も特に目を引くところはないが、けっこう難しい動物作画が破綻することもなく、終盤のモブシーンなどもしっかり動かしていた。


しかし大人になってあらためて見ると、何というSFな「サマードッグ」。
捨て犬や捨て猫を助けようとして、逆に地球史レベルで生物汚染を引き起こしてしまうドラえもん達がヤバイ。犬に機械を操作させようとして人工的に知性を向上させてしまうマッドサイエンティストぶりもマジでヤバイ。そこに科学技術があるからと葛藤を持たずに使ってしまう展開は、正しくハードSFの倫理観だ。
実は、原作ではもっとギャグっぽい描写が多い。知性が向上したイチをドラえもんが評して、君より頭が良さそうだとのび太にいったりする。のび太のママがイチ達を捨てさせる場面も、同情するそぶりを見せる今回のアニメと違って、原作では感情的に怒っている。
ギャグ描写を入れてドラえもん達がよく考え抜いていないことを示し*1、かつドラえもん達の感動話とは別個にSF的な事態が進行していた原作。それに対する今回のアニメは、むしろ感動を前面に出しているゆえに、ある意味でSFらしさが増している。良くも悪くも、といったところだが。
また、序盤の遺跡発見記事に対して、出木杉が土壌汚染で年代測定が誤っている可能性を指摘したり、イチの国が滅びる理由としてぺルム期の大絶滅をくわしく説明したり、今回のアニメでは科学教養描写も増していた。

*1:そもそも冒頭で餌付けをしてしまったのび太にも問題があるのだ。