法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

愛国企業という評価が恥ずかしい

以前に一部で批判と笑いを集め*1、私も言及した*22ちゃんねるハングル板のまとめWiki「国民が知らない反日の実態」には、愛国企業を集めたカテゴリが存在する。
愛国企業 - 国民が知らない反日の実態 - アットウィキ*3
何というべきか、改めて見て驚いた。もともとは、先日の秋葉原で行われたデモで抗議されたオノデンソフマップを、反日企業と名指しするカテゴリを見るついでだったのだが*4


いや、すさまじい数量が掲載され分類された反日企業カテゴリに比べて数が少ないのは、Wikiタイトルからして理解できる。反日と認定された企業の多さに、全てを拒否すればインターネットを使うような生活をすることは不可能だろうと思わざるをえないが、今回の本題ではない。しかし企業を親日認定する理由がいくらなんでも無茶すぎた。
たとえば「正田醤油」が掲載されている理由は下記で全文だ。他に文化財保護*5とかいろいろあるだろ。

醤油メーカー大手。
皇室の歴史上初めてとなる民間出身の皇族として、皇后・美智子妃殿下を輩出した。

ちなみに小和田恆氏は、反日有名人カテゴリ*6の「あ行」に掲載されている。
- 国民が知らない反日の実態 - アットウィキ

外交官。国際司法裁判所所長。元・国連大使。皇太子妃・雅子様の父。
創価学会と深い関わりを持つ人物。
この様な人物が外交官や国際司法裁判所の所長など、日本の国益に関わる要職を務めたり、自身の娘が皇太子妃であることを考えると、日本にとって非常に危うい。

現在は批判内容が消されているものの、「小和田家の問題」なるカテゴリも存在していたり*7、よほど雅子氏は国を愛する一部の人々に嫌われているようだ。


JR西日本」の項もひどい。これを見るまでは正直いって笑いしか浮かばなかったのだが。

正式名称は、「西日本旅客鉄道株式会社」。500系を開発したこと及び関西では新快速で有名。
JR東海と同様、中国への新幹線の技術提供に反対し、台湾に新幹線の技術提供をした事も含め、国鉄労働組合や穏健派労働組合を解体・独立した実績もある。
また、福知山線脱線事故の際も創価学会の陰謀に立ち向かい、売国マスコミの猛バッシングに反発した。
但し、女性専用車両(女性専用席)導入・現在進行形で続く反ヲタ行為(二名以上同一行程など)はマイナス

日本の伝統である女性専用車両*8がマイナス評価になる不思議はさておき、いくらなんでも福知山線脱線事故の記述は悪質すぎないだろうか。むしろ、これこそがマイナス評価の理由になってもおかしくないはず。しかもリンクされている掲示板は、反日週刊誌認定している『週刊文春*9を、最大の情報源としているではないか。


しかし次の項に目を移すと、どうしても笑ってしまう。この項の執筆者は「京都アニメーション」がよほど好きなようだ。

アニメーション製作会社。
通称・略称は「京アニ」。
CLANNADらき☆すたで有名。
他社が韓国や中国へ外注するなか、作画から演出など全ての工程を自社内で行う。
それゆえ、作品の質が非常によく、多くのアニメファンや視聴者から賞賛されている。
但し、反日カルト宗教・幸福の科学ならびに反日企業・ロッテへのCM提供はマイナス。

ただし唯一の親日評価基準とおぼしき「全ての工程を自社内で行う」という記述は、あまりに誇張がすぎる。下請け会社から発展したため映像作業工程の多くに充分なノウハウと人員を持ち、そして元請け作品において可能な限り自社でまかなおうとする姿勢を持っていることは事実だが、音響スタジオなどは持っていない。映像作業でも韓国のAni Villageを下請けとして用いているし、同じ関西のアニメ会社アニメアールの協力をあおいだこともある。『らき☆すた』でワンパックが動画を行った時は、監督更迭というタイミングもあって話題となった。
工程の大半を独自でまかなえるアニメ会社となるとシンエイ動画*10エイケン*11アンサースタジオ*12等々の名前もあがってくる。逆に、自社内で全工程を用意できる大手アニメ会社*13といえば音響スタジオまで持っていた東映アニメーションか、せいぜいスタジオジブリくらいだろう。
しかし東映アニメーションは多数の作品を手がけているため、下請けを活用している作品が大多数。やはり国内自社で多くをまかなっているといえる会社はスタジオジブリくらいだろう。ところが、そのスタジオジブリ反日企業と評価されている。
反日企業/創価他カルト系 - 国民が知らない反日の実態 - アットウィキ

現在の社長星野康二が創価学園卒の熱心な創価学会信者で、池田大作を真剣に尊敬している旨の公式発言が多く、妻も創価学会員。

宮崎駿監督や高畑勲監督が理由なんじゃなくて、新社長が創価学会信者というだけかよ! 他にあるだろう、豚が紅いとかポニョが赤いとか『千と千尋の神隠し』のDVDが……


ついでに「角川グループ」の項も見てみる。

コンテンツ産業の企業グループ。
子会社である「角川書店」の中国(厳密には香港)支社設立や、いわゆる「角川お家騒動」などのマイナス面もある が、1999年に親日国である台湾に角川書店の現地支社を設置。
また、社長の角川歴彦氏は違法コピーを批判する一方で、積極的に同人作家からの新人発掘を薦めたり、YouTubeでの公認MADムービー制度を作り上げたりするなど、日本のアニメ産業を世界に発信させた立役者でもある。
さらに、「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の第3巻では、「特亜三国殲滅」という街宣車を描写するなど、あからさまに街宣右翼や特亜三国を風刺している。

「違法コピーを批判する一方で」という文章だと、あたかも違法コピー批判が反日であるかのように読めるが、それでいいのだろうか。逆に「角川お家騒動」において角川歴彦取締役はどちらかというと被害者的な立場だったからマイナス評価に繋げるべきではないだろう。
学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』についての記述も頭が痛い。「特亜三国殲滅」という表現は「街宣右翼」か「特亜三国」のどちらかを笑う描写であって、両方とも批判対象としている風刺としては成り立たないはず。
何より、たかだかフィクション1作品の描写を巨大出版グループ全体の親日度へ適用できるものだろうか。たとえば角川書店から出された小説『神は沈黙せず』は南京事件否定論批判を描いたため一部で話題になったし*14角川oneテーマ21という新書レーベルからは辛淑玉氏や村山富市氏の著作も出されている。


何にしても、尖閣諸島騒動を受けてなぜかオノデンソフマップへデモを行ってしまう謎を解くには、悪くない情報源となるWikiだと思った。少し気にいらないことがあるだけで相手を消し去ろうとした結果、絶対的な孤独を味わうこととなった『ドラえもん』の「どくさいスイッチ」を思い出す。
ただし念のため、デモ自体は気楽に好きなようにやればいいと考えている。抗議デモだからこそ観客が楽しめるという表現をとってもいいし、あえて同調者を求めないというデモ形態が存在したっていい。立場や意見の異なる人々が1つの目標のため呉越同舟で活動することもいい。
しかし上記Wikiのように、ただの感情論へ中途半端な理由をつけても意味はないだろう。もし好き嫌いが根底にあるなら、その感情を前面に出してこそ誠実とすらいえる。必要なのは表面的な冷静さじゃない。演出がどうこう作画がどうこうという話も楽しいが、好きな作品を作ったから好きな会社というだけでも充分なんだよ。もし中国が嫌いだと思ってしまうなら、それに理屈をつけちゃいけない。嫌悪を抗議の理由にしちゃいけない。

*1:その時期をすぎた後の「口蹄疫」カテゴリでは、はてなブックマークを複数集めながら無言ばかりで批判がほとんどない。インターネット上における批判的意識の継続困難性を感じさせる。http://b.hatena.ne.jp/entry/www35.atwiki.jp/kolia/pages/1196.html

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090506/1241647781

*3:以下、このページを引用している場合はリンクを省略する。引用文の文字強調も排する。

*4:ちなみにオノデンソフマップと同じページにホメオパシージャパンの名前も。http://www35.atwiki.jp/kolia/pages/1340.html

*5:http://www.shoda.co.jp/knowledg/bunkazai.htm

*6:ちなみに「は行」では秦郁彦氏、半藤一利氏、保阪正康氏の名前が同時に確認できて楽しい。他の2人と違って、秦教授は従軍慰安婦研究でプラス評価もされているところがポイント。

*7:http://www35.atwiki.jp/kolia/pages/651.htmlしかし「雅子妃殿下の問題に対する重要な反論」なるものが陰謀論以外の何物でもないあたり、何とも悩ましい。

*8:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080630/1214837695

*9:http://www35.atwiki.jp/kolia/pages/1336.html

*10:ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』で有名。ちなみに現在はテレビ朝日が全株を取得しているはず。今でも京都アニメーションが制作の一部下請けをしている数少ない会社。

*11:サザエさん』で有名。つまりセル画を用いた最後の商業TVアニメを制作している会社だ。ただし『プレイボール』等ではマジックバスが実作業を担当し、海外にも下請けを多く出していた。

*12:元はディズニーの日本下請けとして存在していたが、ディズニーの手描きアニメ撤退を受けて制作工程システムを保持したまま独立した。そのため、社内だけでアニメ作品を完成できるだけの能力がある。

*13:個人制作ならば、蛙男商会のようにほぼ全てを個人でまかなうことも可能。

*14:著者サイトには南京事件否定論批判ページもある。http://homepage3.nifty.com/hirorin/nankin00.htm