法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『狼と香辛料II』支倉凍砂著

中世ヨーロッパ風な舞台における、行商人ロレンスと異教神ホロの旅物語。題名の「II」はローマ数字の2。
ホロと対照的な羊飼いの少女をゲストとし、キャラクター小説として見所が増している。
以下、ややネタバレふくみの感想。


主人公とヒロインの関係は前作で完成されたまま。一度は口絵にも描かれているような崩壊が来るものの、修復は早い。
見所は商人として謀略に出会い、窮地に立たされる主人公の姿。次々に逃げ道がつぶされていく中盤の絶望感はなかなか重いし、ただ一つ助かる方策を見つけて以降の展開もよくできている。
しかし前作と同じ、困った時の文字通り神頼みな展開だけはやめてほしかったかな。ホロにたのめば何とかなるという雰囲気のため、あまり活劇に緊迫感がない。おかげで商業小説らしさが損なわれないという面もあるのだが。


何より面白かったのが、戦いの場が商業であるおかげで、どれほど酷く争いあっても後味が悪くない。
基礎の不安定な行商人として無用な敵を作らないようにと、敵対した商人に主人公は温情的な利益を与える。完全に破滅する人間が出てこないわけだ。
特に今回は、最も敵対する相手が破産寸前でなりふりかまっていられないという事情があるため、どれだけ酷い目にあわされても双方に利益が出るようにする主人公の姿が好ましく、かつ過剰な偽善とは思わせない。