法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ドキュメンタリードラマ『ニュルンベルク裁判』

正確にはBBC単体ではなく、アメリカのディスカバリーチャンネルと共同制作。録画しておいた第1回第2回を視聴。
第3回を先に見たのは失敗だった。ナチスにおいて、そして裁判において重要な位置にありつつ、おのおのの理由で死刑を免れた三者。そして死刑にならなかったがゆえ裁判後にも残った影響。順番に見てこそ、感じとれることがありそうな構成になっている。
もちろん、個別で見てもそれなり以上の出来ではあるが。


まず第1回は軍需大臣アルベルト・シュペーア
労働力確保のために数百万人を徴用した*1責任を主とし、共同謀議を自ら認めることで裁判の進行を容易にせしめた。
最終的には禁固20年。恭順姿勢による減刑といった様子。出所後に回想本を著し、時の人になった。


続いて第2回は帝国元帥ヘルマン・ゲーリング
ゲーリングの役者は裁判時代を演じるには少し肥満気味。ドラマで痩せたことが言及されているのだから、少し痩せた人物を使うべきでなかったか。裁判記録映像との違和感もある。大戦中のイメージには近いのだが。
被告をまとめて激しく検察と対立したものの、ホロコーストを正当化できず*2、獄中で自殺。結局、ナチスの重要人物として裁判後も影響を残す夢はついえた。


そして第3回*3にナチ党副総統ルドルフ・ヘス
精神状態のからみで終身刑にとどまり、他のナチス関係者からは嘲笑の対象となったルドルフ・ヘスが最終的にネオナチのアイドル……つまりは偶像になった。


ナチスを捨てた実務家、ナチスを得られなかった敗者、ナチスが選んだ愚者……そして愚者を象徴とするナチスが現代まで続いている、という構成か。
通してみると、想像以上に多視点ドラマとして良く出来ていた。それぞれの回で少しずつ裁判や人物への見方が変わっていることが面白い。全く同じ場面を使いまわしていることも効果を上げている。

*1:自分の意志で来た者が二十万人にすぎないという番組の言及が興味深い。強制でなくても来る者が少数ながら存在するということであり、自発的に来た者がいるからと強制された者がいないということにならない、という一例だ。

*2:物理的にありえない数字と主張し、被害者数が2ケタ少ないなら話を聞くといった発言が興味深い。歴史修正主義で使われる詭弁の一類型。

*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20071009/1191884773前回の感想エントリ。これだけでは勘違いさせるかもしれないので注記。ルドルフ・ヘスは死刑を免れたものの終身刑に服している。また、死刑でなかった理由が精神状態にあったという話は、あくまで有力な説にすぎない。