法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』あなたは死刑を言い渡せますか〜ドキュメント裁判員法廷〜

まず副題に疑問が一つ。
なぜ“あなたは死刑を言い渡しますか”ではないのだろう。もちろん、死刑判決を出すことへの心理的抵抗に焦点をあてた副題という意図はわかる。しかし、死刑判決を出すことだけではなく、死刑判決を出さないことにも、様々な抵抗があるだろう。
参加した裁判官3人全員が死刑と考えた、ある意味でわかりやすい事件を設定したため、死刑判決を出すことの難しさばかりが表に出てしまったのかもしれない。


さて本編は、NHK主催で一般人を裁判員として抽出した模擬裁判を描く。
裁判官は元裁判官から選び、被告人や被害者遺族といった事件関係者は役者にアドリブで演じてもらっているという。被告人や被害者遺族の演技が巧く、模擬と知っているはずの裁判員が涙ぐむ場面も。
演出で見ると、BGMをいっさい入れず*1、カメラは被写体に寄り気味。評議は狭い部屋に人々が詰め込まれた姿を写し、裁判員達が無言になる場面も多い。三日間という短いようでいて長い時間の圧迫感を、わずか一時間ほどのドラマで感じさせる演出家と編集の手腕を感じた。


評議の様子に、いくつか感じたこと。
まず、法学部出身の山本冠氏が、ほぼ一貫して「疑わしきは罰せず」に立っていたことが興味深かった。話調そのものが達者で、自らの立ち位置を選んでいた気すらした。山本氏は、評議と関係ない日常生活も描かれ、続けて『日本の、これから』の議論にも参加。
裁判用語で「殺意」がわかりにくいという話。わかりにくい用語は、たとえば“危険度認識”とか色々といいかえるという報道記事を読んだ記憶もある。「殺意」という裁判用語はいいかえをしないのだろうか。
足付根の致命傷における殺意有無が争点となり、評議の場で再現されたことについて。身体の中心に近い傷であり、加害者は危険を認識できたはずと意見が一致。しかし被害者は座布団で防御していたことも争点に入っていた以上、座布団で身体を隠した状態で加害者が危険を認識できるかも勘案するべきだったと思う。
最後に、個々の裁判員判決理由を述べた時、死刑制度の存在自体をもって死刑を主張する場面があった。なお、その主張をした裁判員が無期を主張した場面もある。存在すること自体をもって最も重い罰をくだそうという主張は、一種の思考停止だと思うのだが、『日本の、これから』でも別人が同様の主張をしていた。死刑制度の存在自体に疑問を感じた瞬間だった*2

*1:NHKのドキュメンタリーは演出こそ抑制されているが、BGMは多用している。

*2:死刑制度反対とは少し違う。