各部で血統や設定の関連はあるものの、時代も場所も必ず変えて、物語も一段落させる少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』。
その第三部の実写化が頓挫したという報道が流れたばかりだが、第四部の実写化が正式に発表された。
映画「ジョジョ」はスペインロケで、「4部をすべてやりたい」と続編も視野に - コミックナタリー
第4部「ダイヤモンドは砕けない」を原作とした実写映画の製作発表会見が、本日9月28日に東京のザ・リッツ・カールトン東京にて開催された。
第三部は、エジプトにいる強敵のところへ、日本から旅をしながら戦いつづける。さまざまな人種が登場し、さまざまな地域を舞台としているため、もともと日本で実写化できそうには思えなかった。
経路が一本道であるため、敵の数を削減してもショートカットが難しいという問題まである。ひとつの映画として完結させるには最初から後半戦だけ映像化するか*1、日本から飛行機で直接に敵地へたどりつく*2くらいの大きな改変をしないと難しい。
第四部は、現代日本を舞台として、いくつかの強敵との戦いをオムニバスで描く。主要な外国人は、主人公の父親や、イタリア人の料理人くらい。ドラマのピークとなる敵が何人かいるから、すべてを映像化しなくても物語がきちんと完結する。
事実、映画には「第一章」というサブタイトルもついているし、舞台挨拶に登場する「史上最低の殺人鬼」がラスボスだとすると、主人公コンビが結びつく序盤までが映像化されるらしい。
監督を三池崇史が務めることが明かされた。三池はオファーを受けた際、3日間眠れなくなったと告白し、「『これを作った後、我々は(今後)何を作るんだ』と思えるような作品にしないといけない。日本映画が1回リセットされるくらいのビッグタイトルだと思っています」と抱負を述べる。
三池監督は作品ごとの評価の高低差がすさまじいが、たとえば『ガッチャマン』の実写化を断り、可能そうな『ヤッターマン』に選択して見事に完成させた判断などは悪くなかった。
『ヤッターマン』 - 法華狼の日記
やはり気になるのは、日本が舞台の物語を日本人の俳優でつくりながら、ロケ地にスペインを選んだこと。
作中のほぼすべてのシーンがスペインで撮影されることについて三池は、「原作の舞台は仙台杜王町ですが、日本だけに限らず、世界中から杜王町を探そうというところから始めて。そうしたらスペインにシッチェスといういい町があったんです」と、経緯を語った。
もちろんシッチェス自体は映画祭でも知られる街で、ロケの不都合も少なそうだという期待はもてる。
逆に、第四部の物語は1980年代で、日本でモデルとなった地域が現在そのまま使えるわけではないという問題がある。漫画表現も日本的な電柱などは少なく、無国籍な雰囲気で描かれていた。
そして三池監督は、チャイニーズマフィアと抗争する無国籍な日本を描くため、米国の砂漠地帯をロケ地に選んだ前例がある。
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映画は闘鶏シーンしか印象に残らなかったが、興味深いこころみではあった。
そして、舞台となった場所が近くにあるのに、あえて遠くで撮影した映画は、他にも無数に存在はする。
たとえば日本の戦国時代を舞台にした妖怪漫画『どろろ』は、その実写化においてニュージーランドで撮影された。
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しかし『ロード・オブ・ザ・リング』に影響を受けたような趣向にすぎず、無国籍にした意味は見いだせなかった。
制作費が遠隔ロケに消尽されたため、映像表現として重要なはずの妖怪のVFXが甘く、感心はできなかった。
バブル時代の産物として、歴史小説を角川書店が映画化した大作『天と地と』は、合戦シーンをカナダで撮影した。
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ただし気候が日本らしくなく、どれほど風景が雄大でも歴史映像として効果的だったとはいいがたい。
スピリチュアルがかった角川春樹らしい映画全体も、当時から低い評価だった。
ちょっと変わったところで、古い日本の説話を映像化した『夜叉ヶ池』は、洪水直後の村をイグアスの滝で撮影したという。
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これは洪水シーンを担当した矢島信男特撮監督による提案。撮影は本編担当とはいえ、『妖星ゴラス』で水没した都市を川にミニチュアセットを並べて表現したような特撮の一種といえるか。
巨大ミニチュアを使った洪水シーンの特撮は邦画で特筆すべき出来栄えとして知られており、映像ソフト化されていないことが惜しまれる。
同じ日本国内だが、江戸時代の抜け忍の戦いを描いた『カムイ外伝』は、2010年の映画化において沖縄に漁村のセットを建てて撮影した。
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しかし主演俳優が怪我で撮影中断、最初に建てた巨大セットは台風で壊れてしまい、再建する羽目になったという*3。サメのキグルミも劣化してしまい、3DCGで新しく作りなおした。
精力的に映画をつくっては高い評価を受けてきた崔洋一監督だが、この作品は各評論家から酷評され、以降は現在まで新作を発表していない。
『夜叉ヶ池』のように、短い見せ場だけ海外を使うというパターンはある。たとえば、韓国の撮影所で空襲後の廃墟を映した『少年H』は悪くなかった*4。
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ふりかえってみると、効果的なのは必要最低限な一部に活用したものが多い。意欲がからまわったり、裏目に出てしまったものばかり。
ろくな前例がなかなか思いだせないのは、私個人の記憶の問題でもあろうから、不安になる必要はないのだが……
*1:1993年のOVAは、エジプトに到着してからラスボスを倒すまでを映像化して完結し、2000年に第三部の前半を映像化した。
*2:原作で主人公たちが当初にとった手段。
*3:http://www.yanbaru-club.com/blog/2010/09/post_684.htmlにビフォーアフターの写真がある。最初に建てられたセットを見学したブログにも、撮影の中断をいぶかしみ、台風に流されかねないことを心配する記述がある。「カムイ外伝」の映画のロケ現場に、偶然たどり着きました。白土三平作、崔洋一監督、主演松山ケンイチの「カムイ外伝」は、2009年1月公開予定です 第94回沖縄訪問(15) | 松葉博雄の社長研究室