法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画大好きポンポさん』

 映画の都、ニャリウッド。青年ジーンは映画プロデューサーのアシスタントをつとめながら映画について学んでいた。そして完成したB級映画の15分CMの編集をまかされる……
 一方、女優になろうとして工事の警備員などのアルバイトにあけくれている少女ナタリーは、オーディションに落ちつづけていた。しかし映画プロデューサーの目に止まる……
 その映画プロデューサー、ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットはコネクションを総動員して、自分自身で書きあげた脚本をふたりにまかせるが……


 新興制作会社のCLAPによる、2021年公開のアニメ映画。『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』等と同じく、平尾隆之監督はコンテだけでなく脚本や音響監督も担当している。

 NHKで1月4日0時40分から放映予定で、副音声で監督らのコメンタリーも流れるとのこと。
劇場アニメ「映画大好きポンポさん」 - NHK
 もとはPixivで無料公開されて注目された中編の映画制作漫画に、それらしいアドリブで対処する局面や後述のトラブルを足しつつ、コンパクトな約1時間半のアニメ映画としてまとめている。


 映画をテーマにした作品らしく、ワイプや画面分割などカットつなぎの手法が多種多様で楽しい。特に前半で多用してポップで軽やかに場面転換して、陰鬱な状況にあるメインキャラクターのドラマを見やすくしている。
 金髪女優ミスティアを下半身からなめるように映すカットが多い序盤は、まさにそういうB級映画を撮っている場面だからいい。凡庸なセクシーキャラクターに見えるからこそ、撮影しない期間では身体をしぼるためのトレーニングで腹筋がわれている描写とのギャップも楽しい。一方、中性的な役を演じさせるメインヒロインもベッドで後背から映すカットは無くても良いのではないか、とは思った。声優専業ではない大谷凜香の生っぽい芝居感のない芝居が、物語が進んで女優になっていくナタリーにあわせて作品になじんでいったところは良い。


 後半のアニメオリジナル色が強くなり、プロデューサーに批判されながら追加撮影をたのみこんで完成させるジーン監督のドラマは、TVアニメ『GOD EATER』を破綻させてufotableを退社した平尾監督自身の再生のドラマだろうと思った*1。そしてそれが映画制作の外部からジーンの存在を認めたアニメオリジナル青年アランの、映画から少し離れた場所で再生するドラマにもかさなっていく。
 ただ、銀行の会議そのものをアランが配信するのはやりすぎと感じられて冷めてしまった。スタッフのインタビューに対して誰が見るのかと役員がツッコミを入れて、すでに配信してクラウドファンディングを呼びかけていますとアランが返すくらいのもりあげのほうが飲みこみやすかった。もちろん、スタッフの奮闘から銀行の会議の一幕まで見る観客と、劇中の一般市民が一体化する構図をつくりたかった意図はわかるのだが、なくてもきっと観客につたわるはずだ。
 あと、オチの台詞からEDになだれこむのではなく、先に本編の風景にかぶせるかたちでスタッフクレジットを表示して、オチの台詞直後に終わったらもっとキレイだったろう。現状でも充分にコンセプトをつたえられてはいるが。


 いずれにしても、いくつか文句を書いたが悪い作品ではない。新興制作会社でも背景美術は精彩で見ごたえあるし、適度にシンプルなデザインのキャラクターがこぎみよく動く。
 アニメオリジナルのアドリブやトラブル解消も、基本的に物語にそって説得力がある範囲におさめていて、努力をしいるだけではない映画制作の面白味がきちんと感じられた。

*1:実際、映画にまつわるインタビュー記事でも言及がある。 news.denfaminicogamer.jp