22年目に再結成する予定のバンドのボーカルが路地裏で死体となって見つかった。元アイドルと結婚してソロ活動をしていた被害者が有名人だったことから、傷害致死と思われつつ一課と特命係が捜査をはじめる。
被害者はバンドの解散でも再結成でも仲間をひっかきまわし、事務所の社長にも総額5000万円の借りがあるという。しかしバンドメンバーをさぐると、それぞれボーカルに負い目があることがわかっていく……
周囲をふりまわすが利用もされる、人生のすべてを音楽にささげた不器用で純粋なボーカルがおもしろかった。
関係者の隠していた秘密をさぐり、関係性をあばいていくことで少しずつボーカルのキャラクターが判明していく、そのようにミステリとドラマの構造が一致している。ボーカルとの関係性から周囲のキャラクターもうかびあがっていく。特に、いったん音楽からリタイアして清掃業でなんとか生活しているドラマーの鬱屈が、ひとりだけ隠された背後関係などないところが逆に印象的だった。
そしてボーカルが補聴器をつかっていた描写を手がかりにして、誰がボーカルをどこまで知っていたかという距離感がひもとかれ、それが証言の矛盾をうかびあがらせて真犯人を推理する解決編も良かった。ちゃんと刑事ドラマでパズラーをやってくれている。
しかし、明かされた真相の経緯で考えると、ボーカルがアルコールを飲んでいた可能性は低く、酔っぱらい同士のケンカという推測は検死で除外されるはず。その描写は入れるべきだったのではないか。