法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

望月衣塑子氏らの「暴走」がジャニーズ事務所をアシストしたというなら、ジャニーズ事務所の指名NGは望月氏らのアシストになるのだろうか?

 それとも、非常にしつこい追及は望月氏の失点としてジャニーズ事務所の加点になるが、追及から逃げるジャニーズ事務所の態度は望月氏の評価とは切りはなされるのだろうか。


 そのようなことを、記者会見で指名されない記者たちを事務所がいなしたことへ拍手した記者の主張をつたえる新潮記事と、実際に記者たちが指名されないよう決められていたとスクープしたNHK記事を見ながら思った。
ジャニーズ会見で賛否 異例の「拍手」をした記者が明かす「“いい加減にしろよ”という思いが…」 | デイリー新潮

指名されていない中で飛ばされた質問では、その勢いにつられてか会見で東山氏は答えてもいる。逆に手を挙げても質問できない人間にとってはたまったものではない。

「周りの記者はあきれていましたね。150人くらいの記者が集まったとしても、質問なんてせいぜい十数人くらいができるもの。当然当たらないこともあるのに、俺を当てないのはおかしいといったような発言をするのはやっぱり変でしょう。会見は2時間でしたが、前半のプレゼンは40分くらいで、その後は質疑応答だから、個人的には時間を取っていた方だと思います」(雑誌編集者)

ジャニーズ事務所会見 会場に質問指名の「NGリスト」 | NHK | ジャニー喜多川氏 性加害問題

事務所から会見の運営を任されていた会社側が、複数の記者やフリージャーナリストの名前や写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」を会場に持参していたことが関係者への取材でわかりました。リストには実際に会見で挙手し続けながら指名されなかった記者らが掲載されていて、企業の危機管理に詳しい専門家は「真摯に説明すると言いながら、実際の行動が異なっているという印象で、広報対応のやり方として不適切だと思う」と指摘しています。

リストの「NG記者」という文字を拡大したNHK記事の画像

 そもそも、記者会見で熱心に質問しようとしながら指名されなかった記者は他にもいたのに、望月氏ひとりばかりがターゲットとされるように話題にされたこと自体が問題だったようにも思える*1


私たちが実名でジャニーズ事務所の会見運営を批判しているのに対し、デイリー新潮の記事は「雑誌編集者A氏」と「ジャーナリストB氏」という匿名に隠れ、どんな雑誌なのか、ジャニーズ事務所との利害関係も明かさない記者たちが、陰から述べた一方的な論に依拠したものです。私には一切取材がなく、それを大手メディアの新潮が掲載するという、極めてバランスを欠いた記事です。看過できないので反論したいと思います。

そもそも、あの会見が、50年近くにわたり、少なくとも数百人への性加害を創業者が行い、隠蔽してきた企業の説明責任を問うものだったことへの、ジャーナリストや報道機関として最も重要な視座がこの記事にはありません。そこが会見で説明責任を問いかけた私たちとの最大の違いです。徳重氏や、新潮には、世界史上まれにみると言っていい、この性加害に対する見解を聞きたいと思います。その大きなコンテクストなくして、この会見は語れないと思います。

記事についてはまず、A氏とB氏は相手を批判するなら、きちんと自らの媒体と実名を明かして欲しいと思います。それは、社会に向けて記事を書くことができる、ジャーナリストとしての最低限の倫理と責務です。どういう利害関係がある人が語っているのかが、全く分かりません。

「いい加減にしろ」と思う矛先が、戦後史に残る最悪の性加害を起こしたジャニーズ事務所に向かわず、説明責任を求めた私たちたちになぜ向かうのか、私にはよく分かりません。その皆さんの姿勢が、この巨大な性加害を容認してきたのではないでしょうか。

B氏らは、私がトランプ会見や首相会見に出ていたと言ったことを指摘しています。私はその通り言いましたが、同時に私は「芸能リポーターのみなさんも囲みの会見で一番奥を当てたりしないでしょう」と言いました。私が大統領会見に触れていたときは横から「関係ありません」と大声をあげていた同じ列の芸能リポーターは、私が芸能リポーターの会見の例を出すと、すぐに黙っていました。B氏や新潮には、芸能リポーターの囲み会見についての私の発言も記事に加えてもらいたかったと思います。

私は、10/2のジャニーズ会見のおかしさを指摘するために、比較として、首相会見や芸能リポーターの会見に触れました。一部だけを切り取るのはバランスを欠いています。

また、「俺たちは大手メディアなんだ、質問できて当然なんだ」という態度だ、というB氏の指摘が出ていますが、それは違います。あの会見にいたなかでArc Timesはまだまだ新興の小さなメディアです。ジャニーズを取り巻いてきた、拍手や怒号を飛ばしていたという雑誌媒体の記者たちこそが大手メディアです。

ジャニーズを守ってきた大手メディアの記者やカメラマンたちが、巨大な性加害問題で説明責任を求める個々のジャーナリストを攻撃していたーーーそれが、あの会見の場の実態でした。記事で書かれている、「大手メディアの態度を嫌がる雑誌媒体たち」というフレームとは構図が逆です。

記事の最後では、B氏は「あれは仕込めない」と、会見運営が適切だったことを指摘していますが、そこまで断じるなら、ジャニーズや関係者への詳細な取材結果を、論拠としてきちんと示して欲しいと思います。

また、筆者の徳重氏は、結びで、「結局、異例の拍手の裏にはジャニーズの大きな陰謀ではなく、ただ暴走する一部記者とそれに絶えかねたその他大勢の記者たちといういかにもな理由があった」と結論づけていますが、私たちは暴走していたのではありません。

世界史に残る巨大な性加害問題を起こした企業の記者会見で、最前列の記者を、どうしても当てようとしない企業の姿勢を問うただけです。厳しい質問が予想される記者たちから極力逃げようとするジャニーズ事務所の姿勢が、おかしいと考えて、声を上げました。

厳しい質問をする記者には答えない、という事務所が勝手にもうけた八百長ルールに従うことが、記者のやることではないと私は考えます。そして、巨大な性加害問題を隠蔽した企業の会見である、という大きなテーマに主眼に置き続けることが、この会見に出た全ての記者たちの、市民や読者や視聴者に対する責務だと思います。

そしてジャニーズ側に画策や、誰を当てるかなどの事前の「陰謀がなかった」と断じるなら、やはりその論拠をきちんと示して欲しいです。

大手メディアとしての重い責任を負っているのは、雑誌媒体やそこに記事を書くみなさんの方です。匿名の人物たちの言葉を重ねて、一方的なストーリーラインを作り、最後に論拠がわからない断定に急にカジを切って結論づける記事を掲載するのは、メディアの倫理に反します。

私を含めたメディア全体が、この問題で長年きちんとした記事を書いてこず、これだけの性加害をもたらしてしまった責任を、いま一度噛み締めて欲しいと思います。

https://dailyshincho.jp/article/2023/10041103/?all=1

*1:ただ、組織内の大規模な性犯罪として加害と被害の立場がこみいっていたのに、一度目の記者会見において追及に慎重さが欠けていたといった批判は、望月氏がひきうけるべきだとも思うが。