法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『フラグタイム』

なぜか3分間だけ時間を止められる少女、森谷美鈴。彼女はちょっとした学校生活のわずらわしさから逃げるように時間を止めていた。そして見かけた優等生、村上遥のスカートを興味本位でめくったところ、静止しているはずの相手はそれを認識していた。そして森谷と村上遥だけの時間がはじまる…


チャンピオン系列のWEB漫画誌で短期連載され、2014年に2巻で完結した作品を、2019年に中編アニメ映画化。『あさがおと加瀬さん。』につづいて佐藤卓哉監督が手がけた百合アニメ。

いかにも性的な時間停止設定ながら、原作のフェティッシュさは後退して、少女ふたりだけのリリカルな関係が抽出されている。
キャラクターデザインの印象として濃厚な新海誠作品より細田守作品に近いが、さらに肉感をそいでいる。作画の影が少ないだけでなく、描線もそっけなく淡白だ。おそろいの下着を見せあう場面もあるが、装飾的なデザインとわかる最低限の描きこみですませ、キャラクターと大差ない太い実線で薄さを感じさせず、やはりシワやグラデーションのような質感表現は排している。
風景だけのカットを重ねたりして、たったふたりだけの関係をはぐくむ日々と、そのなかで周囲との関係を手さぐりで変えていく森谷。そして人気者に見える村上がそれを維持するための努力が明かされる。孤高の孤独によりそいつつ、対等になったふたりが他の選択肢もあるなかでたがいを選ぶ。これはこれでいい。


ちなみに倒産寸前の制作会社ティアスタジオが手がけたことで、スタッフへの給料未払いなどの問題が多発した作品でもある。そこで製作委員会がグッズ商品で出した利益で少しでもスタッフへ還元することを表明した。
【きゃにめ】「フラグタイム」設定資料集

劇場OVA「フラグタイム」公開中において、本作の制作スタジオである㈱ネクストバッターズサークル(ティアスタジオ運営会社)が経営破綻し、これにより、作品制作に関わられた方々の一部に、経済的な不利益が生じていることが判明いたしました。

ポニーキャニオン及び「フラグタイム」製作委員会は、同社への債務の履行はすでに終えている状況ですが、関係者一同、このたびの事態に強く心を痛めており、僅かでも不利益の回復に資することができないかと考え、本商品の販売を企画いたしました。

本商品の利益は、制作費が正しく届かなかった方々に、その全額を還元させていただく所存です。
商品としても、本作の世界観と魅力をより深く感じられるようなものになるよう努めてまいりますので、上記事情を何卒ご賢察のうえ、皆様のご支援を賜れますと幸いです。

現場が薄給になる要因として語られがちな製作委員会システムが、多少なりともリスクコントロールに役立った珍しい事例といえるだろうか。それ以前の業界全体の貧しさ、自転車操業が通例な厳しさに問題があった事例でもあるのだが。