法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season17』第3話 辞書の神様

無機質に感じられる辞書にも、さまざまな個性がある。たとえば文礼堂は学習用の『文礼堂国語辞典』と、ひとりの言語学者にまかせて読み物として面白くした『千言万辞』を同時に出していた。
その『千言万辞』を担当していた編集者が殺害される。その背景として、辞書の主幹が言語学者の大鷹公介から共同編者の国島弘明に移される策謀があったようだが……


中盤からにおわせていたように、大鷹がアルツハイマーを発症していることがミステリとしてのポイント。辞書制作をめぐる物語らしく、同じ言葉を何度も収集しているメモからアルツハイマーが発覚し、失われた記憶をメモから掘り起こしていく。
そして精神が衰えて攻撃的になっていく大鷹と、以前から確執のあった国島の、どちらかが犯人という目星がかたまっていく。手書きメモによって記憶が改竄されたりするトリックや、スマホではなく固定電話で連絡をとった手がかりを組みこんで、ちゃんと意外な動機の犯人を成立させていた。


脚本の神森万里江は初めて見る名前。検索すると、アルツハイマーを題材とした韓国ドラマ『記憶〜愛する人へ〜』の、フジテレビによるリメイクを手がけていた。
フジテレビONE/TWO/NEXT × J:COM 共同制作 連続ドラマ「記憶」 - とれたてフジテレビ
そのドラマからいくらか着想したのかもしれないが、いずれにせよ1時間枠のミステリとして濃密で充分なまとまりもあり、なかなか良い仕事をしていると感じた。
辞書制作のドラマとしても熱く、そのディテールも細かくて、この作品に求めているものを見られた気分。


ただ、大鷹公介を森本レオが演じたわけだが、女子学生を下からながめる登場シーンに大丈夫かとあせった。もちろんそれは最新の言語を採集しているのが真相なのだが、森本レオが番組ブログに寄せている言語の豆知識も、内容は興味深いものの危なっかしい……
相棒 スタッフブログ

言葉ってね、興味の扉を開ける、道具なんだ。
これが、めちゃ面白い。
例えば、「marry」ってね。
原義は、ラテン語で「花嫁を、mas(男)にあてがった」、だって。
そこから先が愉しい。
「mas」に、あてがう?
「mas」は、多分、化粧というマスクで顔を隠した男、だ。
それが、manの語源になっていく。
あっちこっちの辞書をひっくり返して、女をあてがわれる状況を探していきます。
コーカサスを越えてきた騎馬民族と、エジプトの王たちの地獄の戦いが浮かび上がってきます。
倒した首の数と引き換えに、女を与える。
男は、顔がバレないように派手なペインティングをして突撃していく。
「マスカレード」は女を頂けるmasたちの凱旋パレードだ。
ついでに「wife」の元の言葉は、「veil」、だって。
手柄を立てた奴隷兵に対する、ベールで隠したご褒美だったんだ。
marry=結婚。ひぇー。


ねー、言葉は興味の玉手箱、でしょー。



ラムセスさんは、女性を100人以上常にはべらせていたんだって。