法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

やらせる高畑勲が狂人なら、うける田辺修も充分に……

鈴木敏夫氏が語る高畑勲監督の思い出について、鬼畜のような所業にふるえる人々が多いのは当然として、指摘しておきたいことがひとつある。
「高畑勲監督解任を提言したあのころ」――鈴木敏夫が語る高畑勲 #2 | 文春オンライン

高畑さんが怒りだすと、宮さんがさりげなくかぐや班の後ろに行って、その内容に耳をそばだてているんです。そして、翌日の午前中、田辺くんのところに行って、「パクさんが言ったのはこういう意味なんだ。だから、こういう構図で描かなきゃだめだ」と絵を描きながら説明しているんです。「でも、おれが言ったということはパクさんには言うなよ」。自分の仕事そっちのけで、そんなことを毎日やってるんですよ。ところが、田辺は田辺で頑固だから、その通りに描かない。

この時点で人物造形と作画設計を担当した田辺修氏も、アニメーターとして相当なこだわりがあることがわかる。

西村に話を聞いてみると、要するに、高畑さんが田辺ひとりに芝居を描かせようとしていることが分かりました。『山田くん』からさらに要求がエスカレートしたんです。

はてなブックマークid:kaos2009氏が紹介しているが、このひとりで作画をしようとするこだわりは、田辺氏側も強固に持っていた。
特集 アニメーションとしての『かぐや姫の物語』西村義明プロデューサー インタビュー第5回 高畑勲の本懐、田辺修の才能 | WEBアニメスタイル

── 田辺さんの話に戻りますけど、作画については、どういう関わり方をされてたんですか。

西村 いや、もう全面的に。アニメーターさんにレイアウトを描いてもらうんですけど、大げさに言うと最初の頃は、誰が描いても全修でした。で、直されたレイアウトをもとに、アニメーターさんがラフ原(ラフ原画)を描く。レイアウト、ラフ原、原画チェックという、3段階のチェック体制にしたんですけど、ラフ原でもかなり手を入れましたし、原画でもまだ手を入れていた。これは終わらないな……と思いましたよ。それで、ある時期からラフ原チェックまでに留めたりしました。

── 田辺さんのチェックを?

西村 ええ。最後のほうでは、制作デスクの吉川(俊夫)の発案で、コンテから田辺さんがじかにレイアウトを描けばいいじゃないかと。どうせ全修するんだったら、最初から自分で描けばいいじゃないですかって。でも、田辺さんもなかなか言うことを聞いてくれないんだよね。「いやあ、人に1回描いてもらったほうが、客観的に見れていいんですよ」なんて。


過去の代表的な参加作品を見ても、田辺氏は時間をかけただけの仕事はしているのだが、妥協を知らないため完成量が少ないタイプではある。
田辺修 - 作画@wiki - アットウィキ
もちろん宮崎駿監督のような質と量をかねそなえたアニメーターがそうそういるはずもないが、ある意味で高畑監督と田辺氏は通じる部分があったわけだ。


ちなみに、そんな田辺氏の特色がわかりやすいアニメーションというと、スタジオジブリ関係者が多く参加したTVアニメ『ぼくらの』のOPだろうか。
ぼくらの | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
OPがはじまって55秒ごろ、夕景を逆光でひたはしる少年の躍動感。わずか1カットだが、作品の顔となる絵であったことは間違いない。