法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ほどほど宝島

春休みの海辺で、みんなは気軽な冒険を求める。そこで秘密道具で冒険用の島を出して、帆船で向かうが、あまりに手応えがなさすぎて……


恒例の映画宣伝をかねたオリジナル中編SP。スタッフは、福島直浩脚本に、五月女誠子コンテ*1、小野慎哉と小西富洋が作画監督という布陣。原画には桝田浩史など。
これまでと同じように、映画と共通するモチーフを使ってシンプルな活劇にしたてている。ただ、はげしすぎない冒険を求める発端や、ピンク色のイルカ型マスコットなど、『のび太の宝島』よりも原型的な短編『南海の大冒険』や映画『南海大冒険』を連想させる要素が多い。
そして物語展開はまったくのアニメオリジナルだが、違和感は少なく、娯楽作品としてまとまっている。ライトとハードのモード変換を前半後半で対比させる構成がよくできているし、どこまでもレジャーの延長でありながら冒険らしいサスペンスを展開できていた。
何より、前半で基本を見せて、後半で応用するという構成がうまい。アニメオリジナルの秘密道具が物語になじみ、トンチのきいた使用法に説得力が生まれる。前半で冒険を過剰に簡易化することで、アニメオリジナルにどうしてもつきまとう違和感をギャグに転嫁できたのも効果的だ。
映像面もよくできている。桝田原画と思われる竜巻エフェクト作画は荒々しく、パーティ用しりとり変身カプセルのメタモルフォーゼ作画は気持ち悪いほどなめらか。前半のライトモードの冒険で、過剰なまでの空虚さを単調な背景美術で表現できていたことも感心した。


伏線とその回収はていねいで、しりとりのような細部のディテールも楽しい。クジラをめぐる生物学的な知識で事態を解決していくことで、子供向け科学冒険物語らしさもしっかりある。宝が象徴するように最後には何も残らないが、娯楽としては完璧に近い。

*1:初参加時には偽名を疑ったし、今でも他作品では見かけない名前だが、ここまで継続すると本名なのかもしれない。『ドラえもん』のび太はうるさいナベ奉行/地球下車マシン - 法華狼の日記