ノーベル文学賞を授与されたことで、文化勲章をおくる計画が報じられている。
イシグロ氏:文化勲章? 「国家に功績」解釈分かれ - 毎日新聞
「国家に功績のある人」に、日本も舞台にした作品を英国を拠点に英語で執筆しているイシグロさんが該当するか、解釈が分かれるからだ。文部科学相の諮問機関・文化審議会で近く検討される。
記事にあるように、外国籍の受賞者は複数の前例がありはする。
外国籍は、米国人で日本文学研究者のドナルド・キーンさん(後に日本国籍を取得)ら3人。月面着陸したアポロ11号の乗員3人は、外国人を対象とする「儀礼叙勲」で69年度に特別受章している。
しかし日本は国家制度として、イシグロ氏が日本国籍をもちつづけることを許さなかった。そしてイシグロ氏は英国籍を選んだ。
ノーベル文学賞 カズオ・イシグロが語った日本への思い、村上春樹のこと | 文春オンライン
――イシグロさん自身のことについて、おききしたいと思いますが、国籍は日本と二重国籍を持っておられるのでしょうか。
イシグロ 残念ながら、日本は二重国籍を許しません。イギリスは許しますが、もし日本のパスポートを持とうとすれば、だめですね。少なくとも私がイギリス国民になったときは、100パーセント日本人になるか、日本のパスポートを捨てるかどちらかでした。今でもそうだと思います。人生のある時点で決意しなければなりませんでした。最終的には感情的には日本ですが、すべての実用的な理由から、私はイギリス国籍を選びました。
ちなみにこのインタビューによると、イシグロ氏が愛着をもっている日本文化は、必ずしも現代の現実のそれではないこともわかる。
私は日本についての小説を書き終わるまで、日本に戻らないという決意を意識的にしました。本当の日本が、自分の脳裏にある日本に干渉をすると思ったからです。
日本を書き終えて初めて、日本に行きたくなりました。それで戻ったのです。それはすばらしい経験でした。でもそれは脳裏にあった日本とは異なっていました。
私が日本だと思っていたものは、あくまで長崎のことだと気づきました。それは日本の他の部分と全く違っていました。長崎の記憶は私にとっては子供の世界であり、それに「日本」という名前を与えたのです。
いまでは日本の小説界との交流もあるイシグロ氏だが*1、特に現代日本を特筆的に賞揚したいわけではないらしいし*2、現代日本への興味関心も強くはないようだ。
そんなイシグロ氏が日本文化への愛着を語った報道について、それが日本批判への反証になるかのように読解する匿名記事があった。
イシグロ氏の発言が出るたびにサヨクの元気がなくなっていく
それどころか日本の思い出、日本への親しみや日本人作家との交流の話ばっかりされる
https://mainichi.jp/articles/20171006/k00/00m/040/132000c
サヨクメディアもサヨクブクマカも
当初は「お前等は関係ない!ジャップども!」と鼻息荒かったのに
最近ではイシグロ氏のニュースに寄ってこなくなってしまった
ここからわかるサヨクメディア・サヨクブクマカの信条や本質って
リベラルでも左翼思想でもなく
日本への敵意・執着とか日本人への差別意識のみだよね
いわゆる藁人形叩きは何度も見てきたが、ここまで的を外していると感動的ですらある。
文化や郷土への愛着と、制度や政府への批判が両立するということすら理解できていない。前者を重視するからこそ、後者を表明するということはよくあることだ。
さすがにこの匿名記事は釣りであり、あえて反論を引き出そうとしているのかとも思ったが、はてなブックマークを見ると同調するコメントもある。
はてなブックマーク - イシグロ氏の発言が出るたびにサヨクの元気がなくなっていく
id:giyo381 パヨクはつらいよ、というかパヨクって日本の何が好きでここにいるの?
id:serio 左翼の人は反日というより、ナショナリズムを避けるという意識が強すぎて、「羮に懲りて膾を吹く」状態になっちゃってるのだと思う。人間の場合と同じで、国についても健全な自己肯定感はあった方が良いと思う。
個人がどの共同体へ帰属するか選ぶことと、共同体が個人を恣意的に帰属させたりや排外することを、正反対と理解できていないコメントもある。
*1:早川書房の副社長の仲人をつとめたこともあるという。カズオ・イシグロ - 月村了衛の月録
*2:なお、私自身はイシグロ原作の映画『わたしを離さないで』を観ただけなので、小説固有のディテール等は語れない。映画については、謎学校を導入としたベタなディストピアSFという印象で、普通に娯楽作品として楽しかった。少し百合要素もある。