法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NEW GAME!!』のコンペで描かれたキービジュアルの説得力が素晴らしかった

ゲーム会社を題材にした4コマ漫画が原作のTVアニメ。その2期になって、主人公は新人ながらキャラクターデザインのコンペで抜擢される。冒険的なコンセプトが、実績ある先輩が小さくまとめた対比で高評価されたのだ。
https://gyao.yahoo.co.jp/p/00998/v00927/
そこで先輩をデザイン補佐として、ゲームコンセプトにかかわるレベルでデザインを作りあげていく主人公。しかしキービジュアルは宣伝のため実績ある先輩が描くよう指示される。
それでも先輩のクリエイターとしてのプライドもあって、かたちだけのコンペがおこなわれる……そのような物語が第6話のクライマックスの前提だ。
原作は未読なので、アニメスタッフの功績がどこまであるかはわからないが*1、それでも実力差を表現した説得力に感心した。


ゲーム主人公の少女は、ヌイグルミを着ているデザイン。敵となる生きたヌイグルミをハサミで切って、それを着て潜入していくというゲームコンセプトだ*2

そこからキービジュアルを描かなければならないわけだが、初期宣伝では情報を制限するため、最初の敵となるクマしか出せない等の条件が出される。
そこで悩んでいた主人公が、楽しみながら描こうと決意して、主題歌に乗せて完成していくのが下記の画像だ*3

対する先輩も、他の仕事をこなしながらキービジュアルをまとめていた。それが下記の画像だ*4

作品を見つづけてきた視聴者として、主人公の絵は努力が見えつつ力不足に感じられたし、先輩の絵は主人公を超えている実感がもてた。
作中で凄いと評価されている作品を、その評価を理解できるように説得的に描写するという難題*5を、見事にこなしている。


こうした主人公と先輩の絵がもつ情報量の違いについて感想を探していると、先行してid:emj1025氏が端的にまとめていた。
NEWGAME!! 6話 青葉と八神コウのデザインの差は何だったのか - emuramemo

クマがぬいぐるみであることがわかりにくいし、クマは敵なのか味方なのかもわかりにくい。主人公はなんでクマにまぎれこんでいるのか、明かされない部分が多いです。


八神コウのデザインは、クマのぬいぐるみに襲われたり、自分がハサミを使ってそれを着ることができるなど、新作ゲームの大事なコンセプトが再現されています。

こうした先行する指摘のくりかえしになるが、独自に感じた部分もふくめて、言語化しておきたい。


まず、主人公の絵はゲームのコンセプトを知っている視聴者には理解しやすい情景だが、何も知らない立場からは先輩の絵がわかりやすい。
すでに指摘されているように、主人公の絵ではゲーム主人公とクマの関係すらわからない。堂々としたポーズから仲間のようにも見える。絵に映っている他のクマも誰かが着ているかもしれないと思ってしまう。遠目では主人公がヌイグルミを着ていることもわかりにくいはずだ。
対する先輩の絵は、ゲーム主人公とクマが敵対していること、クマもヌイグルミであること、ゲーム主人公の攻撃手段がハサミらしいことが理解できる。主人公がクマを攻撃することも攻撃されることもあるくらいの立場ともわかる。


また、先輩の絵がコンセプトをわかりやすく伝えているということは、すなわちゲームの独自性が抽出されているということ。
主人公の絵で細かく描かれた背景は、欧風ファンタジーの類型にとどまっている。そこに力を入れても、他の大作ゲームとの差別化が難しい。しかもゲームの舞台は街とはかぎらない。第5話において水中のヌイグルミデザインを試行錯誤する展開があったくらいだ。
実績のある絵描きにキービジュアルを求めるほど、そもそも注目が期待できない作品である。一瞬でも遠目でも、ゲームの個性が伝わるような絵でなくてはならない。背景に力を入れるのは逆効果にすらなりうる。
先輩の絵は、あえて背景を無地にすることで、キーアイテムとなるハサミを持っていることもわかりやすい。宣伝する時の文章も自由に配置しやすいだろう。ゲーム主人公を消失点にした主人公の絵と違って、どこをトリミングするのも自由だ。


そもそも主人公の絵は、視聴者にとって予想の延長上にある。キービジュアルを描く時に主題歌が流れ、ゲームのイメージシーンが展開される。そのイメージシーンと主人公の絵は連続性が高いから、納得感はあっても意外性はない。
対する先輩の絵は、第6話だけでなく過去話をとおして描かれなかった情景を新たに作り出している。だからこそ驚けるし、それをさらっと描いてみせた凄味がわかりやすい。
主題歌をBGMにした演出は、主人公を突き落とす準備で持ちあげる効果にとどまらない。イメージシーンを印象づけて視聴者の想像力に制限をかける効果もあった。ここは間違いなくアニメの功績だろう。

*1:インターネットで原作のキービジュアルがモノクロだったのを見かけたので、色彩の強調表現などもアニメスタッフの仕事かもしれない。

*2:第6話14分10秒。

*3:第6話18分20秒。

*4:第6話20分10秒。

*5:『さくら荘のペットな彼女』異なる媒体を駆け抜けろ - 法華狼の日記で、「絵にも描けない美しさを描く困難」という小見出しでアニメ作品における事例を紹介した。