法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

過労死ライン水準までの残業を許容する裁定に対して、奇妙な理屈で安倍晋三首相を賞賛する匿名記事があった

現時点で100以上のブックマークを集めているが、あまりにも根拠が薄弱だ。
残業100時間未満の安倍首相裁定の記事へのブクマに攻撃と最近の流れの解説

ここで100時間未満って言葉がきちんとあるとさ どうなると思う?

『自殺した○○さんは労使合意の100時間を超えて○ヶ月連続で勤務していたことがわかりました』

って報道されちゃうんだよ。これめっちゃ企業にとってリスクでかいよ。

トラックバックされている別の匿名記事では、単月ならば100時間は過労死ラインをぎりぎり超えていないという説明もされている。
過労死ラインについて勘違いしているやつが多いけど、 過労死ラインであ..

過労死ラインである「80時間(2カ月平均)〜100時間(1カ月)」

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-03-14/2017031401_02_1.html

80時間という数字は2ヶ月以上の平均であって、1ヶ月は100時間だからな。今回の合意は過労死ラインは超えていない。

しかし引用元の赤旗記事を見れば、そもそも現行の政府案は現時点の限度基準となる大臣告示を超えていると指摘されている。
首相、過労死ライン容認/経団連・連合に 残業「月100時間未満」裁定

政府は残業時間を年間720時間とする案を示しており、月の上限も100時間まで認めるものです。720時間は、現在の残業の限度基準=大臣告示(年360時間)の2倍。月100時間は、限度基準(月45時間)の2倍以上で、過労死ラインの水準です。

そう、労働基準法もふくめて「明確な閾値」はいくつも設定されてきたのであり、それを何度となく企業が踏みこえて行政が容認して現在がある。
最初の匿名記事の主張が正しいならば、本来ならば月45時間を超えた残業があった時点で報道されていなければおかしい。
ただ連合の低すぎる基準を採用しただけの安倍首相が画期的であると主張するため、匿名記事は過剰に楽観視しているといわざるをえない。


念のため、過労死ラインを正確に説明すると、仕事と過労死の関連性が「強い」とみなられる基準のこと。その寸前までは関連性がないかというと、もちろんそのようなことはない。
過労死ラインとは - コトバンク

過労死を労災認定する際の基準として、厚生労働省が定める時間外労働時間。発症前の1〜6カ月間に時間外労働が1カ月あたり約45時間を超える場合は業務と発症との関連性が徐々に強まるとされる。発症前1カ月間に約100時間、または発症前2〜6カ月間に1カ月あたり約80時間を超える時間外労働があった場合は「業務と発症との関連性が強い」としている。

つまり「過労死ライン」とは“関連性が強いライン”ということであって、“過労死にいたるライン”は現行でも月45時間ということ。
そもそも、死にいたりうる直前までなら労働力をしぼりとっていいかというと、それも許されないと現代人としては思わざるをえない。


また、最初の匿名記事は、安倍首相が母親と面会したという産経記事を引いて、高橋まつり氏の過労死が利用されている。

既に上司が書類送検とか社長が辞任とかそういう次元を超えてきている。

http://www.sankei.com/politics/news/170221/plt1702210046-n1.html

いろいろバタフライエフェクトめいてはいるけれども、一人の女性の悲しい死が労基法、ひいては国を変えようとしている歴史の転換点にいるってことははてなユーザーのみんな、覚えておけよ。

しかし先述した安倍首相の裁定を批判する赤旗記事では、高橋氏の母親が強く批判していることを報じている。

1カ月100時間の残業を容認する案に対し、「過労死遺族の一人として強く反対します」とのコメントを出しました。「長時間労働は健康に極めて有害なことを政府や厚生労働省も知っているのに、なぜ法律で認めようとするのでしょうか」と批判しています。

人間は、ひとりの犠牲を観劇するように歴史の転換点にいるのではない。人間は、ひとりひとりが歴史の転換点にならなければならない。