法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『Vフォー・ヴェンデッタ』

2005年の実写映画。軍事独裁化したイギリスを舞台に、ダークヒーロー「V」による反政府テロ活動を描く。
原作は未読だが、1980年代に書かれたアメコミだという。もともとはイギリスで発表されていたが中断し、DCコミックで再開したという経緯らしい。
紆余曲折ありながらも革命を正面から称揚する、その珍しさが面白い映画ではあった。独裁者を圧倒的な強者とは描かず、現代の民主政治の延長にありえる人物像にしたのも良かった。


意外だったのは、「V」の道化的な印象。
ポスター等では真っ白なガイ・フォークスの仮面だが、本編では頬紅がはっきり映っている。着ているスーツが厚目で、俳優のかっぷくが良いため、横幅も広く感じられる。そこに仮面をつけているから、まるで六頭身くらいの体型に見えた。
どうせ劇中で仮面を外さないのだから頭身の高い人間を演じさせるか、せめて仮面の密着度を高めるかしないと、スタイルが良く見えない。
しかし道化的な印象は、外見だけでなく言動でも徹底されている。ヒロインとの日常はコミカルに演出されているし、テロ活動を警察に阻止されたりする。生身のアクションも、チンピラ的な警察を序盤に倒した後は、クライマックスまで待たなければならない。
おそらく意識的に、底知れぬ恐ろしさなど持たない、仮面で正体を隠すしかない平凡な人格として「V」を映している。2時間を超える映画にしてはアクションが少ないし、ヒロインの積極的な行動も少ないが、それも欠点とは感じない。大衆のひとりひとりが「V」になれる結末を描くため、あえてそうしたように思えた。


ただ不満もないわけではない。特に舞台となるディストピアが、場面ごとに雰囲気が変わりすぎていることは気にかかった。
街並みは古びたロンドンが中心だが、警察署内は近代的なオフィスで、独裁政権の会合はレトロSF的。そこに現実のニュース映像もモンタージュされる。
もっと街並みもふくめてレトロSFな雰囲気で統一するか、警察署内もアンリアルにして不統一感を逆説的に統一するか、デザインコンセプトをはっきりしてほしかった。