法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「嘘」が吉田清治証言のことだとして、「嘘ついて30年以上放置してた奴」はどこにいるのだろう

nekoguruma氏の露骨な二枚舌をフォロワーは気にならないのだろうか - 法華狼の日記
従軍慰安婦問題について日本軍の責任を指摘したら、女性の人権問題でもあることを指摘できなくなる……わけがない - 法華狼の日記
上記の2エントリで批判した[twitter:@nekoguruma]氏が、下記のようにツイートしていた*1

朝日新聞に何も責任がないとか、批判するべきではないとか、誰が主張しているのだろうか。少なくともnekoguruma氏のツイートは表現や事実で誤りがある。どのような責任が朝日新聞にあるかと論じる時、それこそnekoguruma氏のような認識を基礎にしては説得力がない。
すでに冒頭の2エントリで批判した範囲におさまるような主張だが、ついでに紹介したい情報もあるので、重ねて批判したい。


まず、「嘘をついて」という表現を字義通り解釈すれば、吉田氏が対象になるはずだ。しかし朝日検証でも紹介されているように2000年に亡くなっている。
「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断:朝日新聞デジタル

吉田氏は00年7月に死去したという。

済州島での奴隷狩り証言が1982年の講演から確認されているわけだが、それから30年となると、死後は物理的に放置せざるをえない。もっとも、1990年代から吉見義明教授らから質問されており、その回答によって歴史資料としては採用されなくなっていた。
もし放置したと批判している対象が朝日新聞だとすれば、そもそも主体的に嘘をついたわけではない。問えるのは、他メディアと同じく伝えたり広めたりした責任だ。それに朝日検証にあるように、朝日新聞が真偽ふたしかと報じたのは1997年のこと。

 97年3月31日の特集記事のための取材の際、吉田氏は東京社会部記者(57)との面会を拒否。虚偽ではないかという報道があることを電話で問うと「体験をそのまま書いた」と答えた。済州島でも取材し裏付けは得られなかったが、吉田氏の証言が虚偽だという確証がなかったため、「真偽は確認できない」と表記した。

これはすでにnekoguruma氏もApeman氏らに指摘され知っているはずのことだ。たとえ「事実上の撤回」ではないとしても、証言の信用性を検証して報じたのは事実で、「放置」という表現は当てはまらない。


また、吉田証言が影響のあった証拠としてクマラスワミ報告書をあげ、下記のようにもツイートしている。

秦郁彦反論も収録されていることを指摘されると、下記のようにツイートした。

しかし文章量で比較しても、あくまで言及しただけの吉田証言よりも、わざわざ特筆するように指摘している秦郁彦取材を重視していると解釈すべきだろう。
むろんクマラスワミ報告書は複数の問題点が指摘されてきた。下記エントリで紹介した。否定的にであっても吉田証言をとりあげるべきではないというのも問題点のひとつ。
クマラスワミ報告書と吉田清治証言と性奴隷認定の関係をめぐるデマ - 法華狼の日記
しかしそうした批判をおこなった上で評価してきたひとりが吉見教授だ。前後した下記ツイートは不当な批判でしかない*2


後に、下記ツイートのようにnekoguruma氏は主張した。

上記は[twitter:@kanenooto7248]氏の下記ツイートをリツイートしての主張だ。

kanenooto7248氏が紹介している[twitter:@rinkoro0503]氏のツイートは下記のとおり。

しかし上述のように朝日新聞は1997年の時点で真偽を確認できないと報じており、20何年も放置していたというrinkoro0503氏の認識は誤り。疑問の声が1992年の秦郁彦調査のことだとすると、それ以前の1991年に金学順証言をつたえ、その後に複数の被害者証言や資料発見を報じることで、吉田証言が従軍慰安婦問題の主軸でないことを明らかにしていたともいえる。
また、一般論としてならkanenooto7248氏の主張はうなずけるところもある。しかし、1997年の段階で朝日新聞が事実上の撤回をおこなっていたことをつたえず、あたかも2014年にはじめて検証したかのような主張は、吉田証言の影響力を過大に見せる進行中のデマといえる。正しい歴史が認識されることを目指せばこそ、1997年に事実上の撤回をしていたことや、2014年の自社記事撤回が主要メディア初ということを、広くつたえるべきだろう。


ちなみに「嘘ついて30年以上放置」といえば、1965年の荒船清十郎議員の発言が、今にいたるまで政党として撤回*3されていないことが一部で知られている。
慰安所と慰安婦の数 慰安婦問題とアジア女性基金

 荒船清十郎氏の声明とは、彼が1965年11月20日に選挙区の集会(秩父郡軍恩連盟招待会)で行った次のような発言のことです。

「戦争中朝鮮の人達もお前達は日本人になったのだからといって貯金をさせて1100億になったがこれが終戦でフイになってしまった。それを返してくれと言って来ていた。それから36年間統治している間に日本の役人が持って来た朝鮮の宝物を返してくれと言って来ている。徴用工に戦争中連れて来て成績がよいので兵隊にして使ったが、この人の中で57万6000人死んでいる。それから朝鮮の慰安婦が14万2000人死んでいる。日本の軍人がやり殺してしまったのだ。合計90万人も犠牲者になっているが何とか恩給でも出してくれと言ってきた。最初これらの賠償として50億ドルと言って来たが、だんだんまけさせて今では3億ドルにまけて手を打とうと言ってきた。」  

放置されて、すでに約半世紀。この発言には根拠となるものがなく、荒船放言として知られている。
14万2000人を総数とみなせば、歴史研究における推計数の妥当な範囲におさまっているわけだが、それをいえば済州島における慰安婦募集数はインドネシアにおける日本軍の直接的な慰安婦募集よりも少ない。
「末端の将校」が強制募集したスマラン事件と、吉田清治証言の済州島事件を比べてみる - 法華狼の日記
主体的に誤った主張をおこなった上、吉田証言以上の期間を「放置」されているとして、今度は自民党の責任を問う声が出てくるだろうか。

*1:数ツイート前にリツイートした、私のエントリを言及したしたnoharra氏のツイートに呼応したものらしい。https://twitter.com/noharra/status/532676364533383169

*2:さらに冒頭エントリで紹介したApeman氏とのやりとりと見比べれば、不誠実といわざるをえない。https://twitter.com/apesnotmonkeys/status/532526814506151936

*3:信用性に留保をつけることは撤回にあたらないというnekoguruma氏らの考えにあわせた。自民党の政治家が個人として否定していないと主張しているわけではない。