法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『京騒戯画』#0 予習篇/#1 ある一家の事情とその背景

東映研究所出身の若手演出家、松本理恵*1に全体の統括をまかせた企画『京騒戯画』。京都の歴史や建築物をイメージソースに、『不思議の国のアリス』から人物関係を拝借し、東映アニメーションとしては破格な映像リソースをつぎこんでいる。


#0として初回に放映されたのは、最初に発表された30分のPV作品とほぼ同じ。
発表された当時は、作画の素晴らしさだけでも楽しかったし、和風とポップが入り混じった背景美術は面白かった。
しかし、次々にキャラクターが登場して意味ありげな台詞を発するだけの狂騒的な映像と、キャラクターの奔放アクションだけによりかかっていて、ひとつの物語としては成立していなかった。特に、主人公コトを奔放な少女と描こうとしていただろうに、明確な目標や信念が設定されておらず、物語を牽引させたいのか観察させたいのか、どっちつかずで終わってしまった。よって立つ基盤が弱いので、キャラクター自体の印象も弱かった。
最初のPV発表後に「第二弾」として各キャラクターの横顔を見せる短編がいくつか発表され、ようやくキャラクターの顔と性格が区別つくようになったものの、#0で再見した段階では、やはり何を当面の目的として楽しめばいいのかわかりにくいままだった。


しかし連続TVアニメとして仕切りなおした#1では、逆に少女コトが不在なまま物語が進み、物語の舞台「鏡都」が成立していった過程を入念に描いていく。
絵に描いたものを実体化する能力をもつ僧侶と、彼に恋した絵の兎。菩薩の助けで夫婦となった二人は、絵を実体化した子供や戦災孤児を育て、やすらかな家族のいとなみをはじめた。しかし異端視され恐怖された一家は、当時の権力者から逃れるため、絵に描いた世界へ移り住んだ。その世界で、穏やかすぎる長い生活に兎は迷いをおぼえる。妻の意をくんだ僧侶は二人で舞台から去ることを選び、三人の子供だけが残された……
狂騒的な世界で右往左往する少女の物語ではなく、美しい箱庭に追いつめられた共同体に少女が闖入した物語だと、ようやく理解できた。
物語の基盤をしっかり形作ったので、最後に登場するコトも物語における位置づけが明確となり、ずっと印象深く感じられた。


それにしても、ここ最近の久川綾は、苦難の道を背負った年上の女性役が多い気がする。あまり声優にはこだわらない性格なのだが、たまたま比較的に熱心に見ているTVアニメで似た位置づけが連続しているので、いささか気になった。

*1:プリキュア』シリーズ中盤からローテ演出家として活躍。最も精力的にかかわった『Yes!プリキュア5 GoGo!』のOP演出が最も知られた仕事だろうか。まとまった作品としては『映画ハートキャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか!?』が代表作。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130828/1377640845