法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アメリカン・ソルジャーズ』

イラク戦争を題材とした2005年のカナダ映画GYAO!で8月28日まで無料配信している。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00862/v00074/
戦争が建前として終結してから約1年、2004年のイラク。その最も米軍の死傷者数が多かった時期、負傷者をかかえて右往左往する米軍1部隊の1日を描く。


ソマリアでの暗殺計画で仲間を助けようとして米軍の被害が拡大していった映画『ブラックホーク・ダウン』の、イラク版といったところ*1。全体として新味はなく、題材に対して力およばずといった感はあるが、無料ならば見て損をしたと感じるほどでもない。C級以下の作品ばかり選んでいるアルバトロスから映像ソフトが出ているわりには、真面目なつくりだった。
イラク戦争を体感できる映画としてkanose氏が推薦していたとおり*2イラクの街をさまよう部隊の視点で、象徴的なシークエンスが次々に並べられていく。イラクの現地警察とは協力しつつも信用できなかったり、捕虜の拷問がCIAの指導でおこなわれていたり、本来の業務は災害対策なのにと州兵が愚痴ったり、米軍と性格の異なる組織の多様性が描かれていたところは印象的だった。
ただし関連性の薄い要素が連続しているだけなので、あまり劇映画らしい構成はできていない。物語らしい皮肉なシークエンスも終盤にあったが、拷問されている捕虜の独断による解放を発端としており、平凡な1部隊の視点という作品基盤を崩してしまっている。せめて捕虜解放を決断するまで、もっと紆余曲折を入れていれば印象が違ったのだが。
戦闘シーンも、数は多いので見ている間は楽しめたが、バラエティがないので全体の印象は平坦だった。それに、負傷者をかかえたために狙われたのだと考えても、テロリストの攻撃にあう頻度が高すぎる。せめて戦闘の規模や場所で変化をつけられれば良かったのだろうが、そこは予算に足をひっぱられてしまったようだ。

*1:この作品で米国はイラク社会と新政府全体への責任を負っているので、救うべき対象が少人数だった『ブラックホーク・ダウン』よりも出口がない。国家のためでなく仲間のために戦うのだという思想を中盤で処理して重視しなかったのも、落としどころにしてしまった『ブラックホーク・ダウン』よりも好感が持てた。

*2:http://d.hatena.ne.jp/kanose/20070719/americansoldiers