全てが終盤へ向けて収束していった前作と異なり、朝鮮系社会に入る男性主人公と在日の出自を隠して芸能界に入る女性主人公のドラマは、終盤まで並行したまま。それぞれのドラマは悪くないのだが、関連性ないまま終盤で急に合流されても困る。
作中映画の戦争と作中現実の戦争*1を対比する描写は面白かったし、終盤の舞台上でなされた告白も良かった。最初から在日朝鮮人女優の一代記として描けば良かったのではないかと思う。
ところで、普通に見ていたら印象に残らないような細部だが、最近の話題と関連して気にかかる描写があった。
終盤で、太平洋戦争を美しく描いた映画の主演女優が出自を告白したことに対し、プロデューサーは話題作りに役立つと評する*2。告白は感動的だったが、確かに現実*3はプロデューサーの評した通りの移行をするだろう。そう、村上春樹エルサレム賞スピーチが、それ自体はイスラエルの反自由性を批判する内容であってさえ、イスラエルの「自由」を賞揚しかねない状況を思い出させるのだ*4。
この点でも、ラジオに放送禁止歌を流すことで、わずかであっても後戻りできない変化を周囲にうながす前作との違いがある。