法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

どうせ手後れなのでアニメしばりで

2007-12-03


1.『劇場版ブラックジャック出崎統監督作品。怒りと冷笑が葛藤する若さを持つ原作版主人公と違い、出崎版主人公は成熟の底に熱さを見せる。
出崎作品は他にも名作があるのだが、演出の完成や映像の緻密さを考慮して。これより後の出崎作品は熱さを失ったハム太郎シリーズや、作画面でリソースが足りなさすぎる『劇場版Air』しかない。


2.『太陽の王子 ホルスの大冒険』高畑勲監督。中盤からの映像的な失速はいかんともしがたいが、日本の商業アニメが社会と繋がった嚆矢として挙げざるをえない。
注目は北欧神話から材料を得つつアニメとして咀嚼された映像と、『雪の女王*1に影響された*2ヒルダの怜悧な美しさ*3。単純な主人公が物語を引っ張り、葛藤するヒロインにドラマがある点は、後の宮崎作品に通じる。


3.『劇場版パトレイバー3』高山文彦監督によるシリーズ三作目。抑制され暗喩に満ちた映像。精緻で冷徹な脚本。刑事物と怪獣物とロボ物と、あまりにかけ離れた要素が雨のスタジアムにて最悪の形で収束した瞬間の美しさ。
もちろん、娯楽性と主題が密にからみあった一作目や、レイアウトで演出する作法を完成させた二作目こそ、世間的な評価が高いだけでなくアニメ史への影響も残しているだろう。しかし押井守作品に、憎悪に満ちた乳揺れへの驚愕はなかった。


4.『王立宇宙軍 オネアミスの翼ガイナックス第一作。これを作るためだけに設立されただけあって、採算度外視でやりたいことをやりきった青春群像劇。世界設定の完成度、巧みに選び抜かれた言葉、緻密な作画。ただの若書きではなく、娯楽性も存分にある。
しかし同一世界観の『蒼きウル』はどうしたのだろう。それを作るためにガイナックスが存続しているという設定ではなかったか。


5.『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』渡辺歩監督により、映画ドラえもん第一作を再構築。自由奔放に国内最高級のアニメーターが画面狭しと遊びまくる。
大騒ぎの後、別れまでのひとときを情感たっぷりに描くアニメオリジナルシーンからは原典への敬意を感じさせる。


6.『風が吹くとき』ジミー・T・ムラカミ監督。核戦争後の日々を、滅びと知らずにすごす夫婦。
柔らかく暖かい手書きの絵面をむしばむ状況の冷たさが、じわじわと魂をしめつける。


7.『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』本郷みつる監督が最後に手がけた映画。様々な要素を詰め込みつつ主人公の成長劇をはさみ、アニメの楽しさを前面に押し出したクライマックスにいたる。
娯楽性の高さだけでいえば『オトナ帝国』『戦国大合戦』で知られる原作品より、本郷作品が上かもしれない。来年の映画には本郷監督が復帰するとのことで期待したい。


8.『くもとちゅうりっぷ』政岡憲三監督による、戦前の日本アニメ。短編で話はよくまとまっているし、擬人化キャラクターも可愛らしい。降りしきる雨のエフェクト作画は今見ても全く遜色ない。
よく映像ソフトに同時収録されている『桃太郎 海の神兵』は長編を支えるだけの密度が物語にも映像にもない。見られるのは中盤の影絵パート*4くらいだ。


9.『映画デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』細田守監督が、国内のアニメファンに存在感を知らしめた作品。テンポ良く娯楽に徹した物語がとにかく楽しい。核ミサイルの軽い扱いも、現在のリアルを写し取っているといえなくもない。
山下高明による影無し作画や高密度レイアウトも直前の『人狼*5とは違った方向性を見せた。


10.『ユンカース・カム・ヒア佐藤順一監督作品。今は無きトライアングルスタッフが制作。
三つの願いと聖夜の奇蹟を組み合わせた単純な筋だが、クライマックスの叫びは力強い。


メジャーな作品ばかり。アニメ限定とはいえ、いかに映画を見ていないかよくわかる。それでもジブリ押井守監督も今敏監督も大友克洋監督も入れる余裕が全く無かった。
再編集映画は入れる気が起きなかった。そのためサンライズ制作、特に『ガンダム』シリーズは入っていない。どうしても顧客数が少ない日本の商業アニメでは、劇場作品よりもTVやOVAに制作者が力を入れた作品が散見されることはわかっているのだが。TVSP作品が許されるなら、『KENJIの春』はぜひとも入れたかった。OVAならば『るろうに剣心 追憶編』を。
実験短編映画の類いが入っていないのは、本当にメジャーな作品しか目を通していないから。それでも国内なら山村浩二作品、海外では『霧の中のハリネズミ』や『老人と海』を入れるかどうか迷った。

*1:アンデルセン童話をロシアでアニメ映画化。あまりカートゥーンを好まず、かといって実験アニメをよく知るわけでもない人間なので、今の日本アニメに近いシンプルなラインで描いたアニメートといえばこれ。山賊の娘がツンデレ百合の起源という与太を頭に入れながら見ると、なお楽しめる。

*2:個人的にはラングの『メトロポリス』にも通じるところがあると思う。

*3:二重人格の演出自体も、同時期の東映動画映画『サイボーグ009』と比べて段違いだ。

*4:ちなみに内容は白人による侵略の歴史を批判するもの。

*5:スタッフ的に共通点はほとんどない。