法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ぼくはアイドル?』風野潮 作、亜沙美 絵 岩崎書店

ワイドショーの料理コーナーを、女装して担当することになった中学生男子の物語。
表紙はライトノベル的な現代風の絵柄で、コメディのような設定の児童小説だが、意外と真面目に書かれているというので読んでみた。なるほど、とてつもなく深いというわけではないが、基本的なジェンダー・セックスと社会の関係について押さえている。活字の大きさも、慣れれば問題はない。
以下、ネタバレ。


最終的に主人公は本当の自分となるために女装をやめるが、一方で女性らしく生き続けようとする性同一性障害者についても触れられているので、社会的な性によりそうことだけが善という結論にはならない。さらに主人公は女装をやめるだけでなく、通常の生活で不自然に男らしくふるまうこともやめる。男らしさと女らしさの2択ではなく、正しくジェンダーフリー*1を結論としている。
また、作中のテレビ番組において、性同一性障害者が水商売でしか生計を立てられない社会問題を批判しつつ、同時に水商売で生きる人の存在を肯定する。隙のない目配りがいい。


残念なのは、主人公の恋愛関係が子供向けらしく浅く終わっていること。女装した主人公に恋した少年は、正体を明かす直前から全く触れられていない。父と性同一性障害者の恋愛も、深く踏み込む寸前で甘く終わっている。
主人公がクラスに受け入れられる過程も、最終章で登場したキャラクターがデウスエクスマキナとして活躍するのは手抜きといわれてもしかたないだろう。
最終章までは伏線も小道具の使い方も手堅い。最後のまとめがしっかりしていれば、もう少し良い評価が得られただろうことが残念。

*1:この場合、社会的に押し付けられる男らしさ女らしさという観念から自由になるという意味。