シリアの古都アレッポで、ドゥーニャという幼い少女が祖母や祖父と楽しく暮らしていた。ドゥーニャの母は天でお姫様になり、街角で本を売っていた父は官憲に拘束された。そしてアレッポに爆撃がくりかえされ、ドゥーニャの家も崩壊したことで、ついに外国へ脱出することを決める。どうしても乗りこえられそうにない困難に直面するたび、ドゥーニャは魔除けの効果があるバラカの種で奇跡をおこして切りぬけるが……
2022年のカナダのアニメ映画。NHKがすぐれた教育作品を表彰する日本賞において、第49回グランプリに輝いた。2023年11月にEテレで放映したものを録画で視聴。
第49回日本賞グランプリ作品上映会&アフタートーク | 日本賞
カナダに移住したシリア難民の子どもたちを取材し、彼らの実体験にファンタジーの要素をかけあわせて制作されたアニメーション映画「ドゥーニャとアレッポのお姫様」。戦争や難民といった複雑なテーマを、子どもたちにとって親しみやすい物語に仕立て上げるために、どのような工夫を盛り込んだのか?シリア人の監督やキャストとのクリエイティブな共同作業で得た発見や学びについてボールガーさんにお尋ねしました。
まず異文化の生活描写だけでけっこう楽しく、「それで甘さ控えめなの?」「茄子のジャム?!」といった感想を反射的におぼえながら視聴した。つい最近に独裁と戦火にさらされているイランの食生活を紹介するデイリーポータル記事を興味深く読んだのが試聴のきっかけのひとつだが、予想以上に紀行作品として味わいが似ている。
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主人公は市井の人々とふれあいながら、さまざまな物語も楽しむ。歴史的な伝説もあれば、主人公をなぐさめるため父がつくったようなおとぎ話もある。そうした幼い少女にとっての楽しい現実と幻想の幕がかけられた向こう側から、苛烈な社会状況が透けて見えてくる。これはアニメ映画版『窓ぎわのトットちゃん』と同じ趣向。公開直前の監督コメントで言及されたのが、当時耳目をあつめていたウクライナ侵攻ではなくシリアの化学兵器だったことに、奇妙な、しかし大切な因縁を感じずにいられない。
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緻密な取材を反映しつつ絵本のような風景を、主人公は前を向いて進みつづけ、安息の地にたどりつく。同時に、再会できず画面にも映らない父親や、田舎に疎開したはずがアレッポの廃墟に残りつづけている少年の姿で苦さも感じる。
そもそも難民として脱出する時の苦難を、ドゥーニャは料理に使うバラカの種をまくことで奇跡を起こし、切りぬけていったわけだが……これは説話類型にある呪的逃走のような描写だが、対する苦難は難民の直面する現実であり、奇跡など存在しえない状況の困難を逆説的に想像させる。そして実際にきりぬけることができた難民もいる現実について、その人々と周囲がなしとげたことの偉大さも実感させる。
あと、ギリシャまでたどりついたところをドイツに行ける人数制限に引っかかったところ、一挙にワープしたのがカナダなのが不思議だったが、最後のクレジットで共同制作国のひとつがカナダというところから制作背景を理解した。
また、約1時間10分くらいの中編アニメとはいえ、カナダ以外でも過程がないところが多いと思っていたら、アニメ映画ライターのネジムラ89氏によると、もとはTVシリーズのシーズン1を再編集したものだったらしい。
【注目】第49回日本賞グランプリ『ドゥーニャとアレッポのお姫様』が2023年11月18日(日)にEテレ放送!|ネジムラ89 / アニメ映画ライター
主人公についてきてアドバイスはするが声はとどかない、まるで主人公を応援する子供を想定して代弁するよう配置したような太古の土偶が登場する意味があまりないと思っていたが、TVシリーズならば停滞した場面で画面に動きをつくるマスコットや視聴者向けの状況説明などで機能したのだろう。