法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

牟田和恵氏の記事を「簡単にまとめる」としてカギカッコにくくった江口聡氏の文章が「要約」でなければ何だろう?

「宇崎ちゃん」献血ポスターはなぜ問題か…「女性差別」から考える(牟田 和恵) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

今回使われたのは写真の通り、幼い表情で、巨大といってもいいような乳房を強調するもの。

詭弁と誤謬推理に気をつけよう(1) 宇崎ちゃんポスターの場合 – 江口某の不如意研究室

牟田先生の上の引用での主張を、簡単にまとめると、「宇崎ちゃんは幼い顔でおっぱいが大きく描かれている」

江口聡氏による「詭弁と誤謬推理に気をつけよう」と題したエントリで、詭弁といわざるをえない要約をしていて呆れた - 法華狼の日記

牟田氏の評を「宇崎ちゃんは幼い顔でおっぱいが大きく描かれている」と要約するのは正しいのだろうか。


あえて個別の主張を「簡単」に分割したため要点をとりこぼしてしまったのかというと、そういうわけではない。
江口氏は下記のように「おおきなおっぱい」であること自体を牟田氏が「性的」の基準にしているかのように主張し、それに同意しないと主張している。

上記エントリへの異論が出てくることは予想していたが*1はてなブックマークで下記のようなコメントがつくのは予想外だった。
[B! 議論] 江口聡氏による「詭弁と誤謬推理に気をつけよう」と題したエントリで、詭弁といわざるをえない要約をしていて呆れた - 法華狼の日記

b:id:allezvous 牟田先生が「過度に性的」の立証をしてない、推測するなら例えば「過度に魅力的であるのか過度におっぱいがでかいのか」という理由だろうか、その場合にはという論立てであって、指摘箇所は要約じゃないと思われ

b:id:DG-Law 「江口氏は下記のように「おおきなおっぱい」であること自体を牟田氏が「性的」の基準にしているかのように主張」していない。allezvousさんの書いている通り。法華狼さんの指摘は的外れでは。

b:id:type-100 この文脈で「強調」の有無を云々するのはそんなに有意義だろうか。いや書いてないけど大きな胸を強調するのが過度に性的なのは当たり前なので問題ない江口氏の感覚がおかしい、みたいな論なら理解できるが。

はっきりいえば、「正しいのだろうか」と保留にした時点でも、「強調」をとりこぼした江口氏の要約が不正確だということはいえた。
それでもつづく文章をたしかめていき、「こういうことになるのかもしれません」という「推測」においても登場人物の体型そのものが性的かと論じていたことをもって、「強調」という表現を使った意味を江口氏がとりこぼしていると確認したのだ。


牟田氏が冒頭の記事で引用しているガイドラインで、最もくわしく説明されているのは東京都港区のものだろう。ここに「強調」という言葉が使われているという文脈がある。

港区は、

「目を引くためだけに『笑顔の女性』を登場させたり、体の一部を強調することは、意味がないばかりなく、『性の商品化』につながります」「(性の商品化とは)体の一部を強調されたり、不自然なポーズをとらされることで、女性の性が断片化され、人格から切り離されたモノと扱われること」(東京都港区「刊行物作成ガイドライン「ちょっと待った! そのイラスト」、2003年)

としている。

この引用部分もふくめて江口氏はエントリで牟田氏の記事を引いているのに、なぜか港区のガイドラインの具体的な記述だけ無視している。
埼玉のガイドラインを引いて「なんかおかしいですよね」と評価して、つづけて国連に当てはめて「同様ですね」と評価。さらに「注意深く読む」と宣言して「米国人男性」と「女性弁護士」による問題提起に言及。
そして「あちこちのガイドラインが過度な性的描写にはをうながしている、ということを列挙しているにすぎず」と評して、港区の説明だけは入念なまでに避けてエントリを終えているのだ。


牟田氏の説明や論理に飛躍があるとして、最も具体的な説明を無視して論じることは、飛躍を過剰に見せかける詭弁ではないだろうか。
牟田先生たちの科研費報告書を読もう (4) – 江口某の不如意研究室

昔からフェミニズムまわりではつらい経験をすることが多かったのですが、「嘘は書かないけど自論の不利になることにも言及しない」ぐらいの原則でやってるのだと思ったら理解しやすいことは多いです。

詭弁でなくても、相手の主張を解釈して推測する手法として妥当とは思えないし、そのような態度が「お互いの努力によって進歩する」ことに結びつくとは思いがたい。
実は江口氏は、牟田氏の科研費報告書についても、言及すべきことを言及していないとしか思えない文章を書いている。もう少し難しい問題ではあるので、いずれくわしく説明したい*2

*1:「簡単」と断りを入れていることから、厳密な要約としては不正確ということを最初から示している、といった主張がありうることは考えていた。もちろん、牟田和恵氏の論理に飛躍があるという江口聡氏の指摘そのものと、要約の不充分さそのものは異なる次元の問題ということも考慮している。

*2:予告的に書いておくと、江口氏は現実に反論する根拠として虚構を持ち出している。それも条件によっては妥当なこともあるが、江口氏の場合は重ねて別の問題があることで、虚構と現実を単純に混同しているような立場になってしまっている。