法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ワンダーウォール〜京都発地域ドラマ〜』

寮の存続を撤回した大学側が、抗議する学生に対してパーテーションを作る。その壁を前にしても抗議をつづけ、防波堤に比喩される女性にも折れなかった学生だが、若い女性が受付に立った時、なぜか退いてしまう……


NHKの各地方局で制作されるドラマのひとつ。『カーネーション』の渡辺あや脚本で、京大吉田寮*1をモチーフとした物語が展開される。
京都発地域ドラマ「ワンダーウォール」 | NHKドラマ
築100年を超える木造建築として、学生たちが独自のルールで運営するコミュニティとして、多面的な魅力をもちながら、大学側はつぶそうとしている空間。その魅力をつくりこんだ美術セットと、俳優たちのいきいきとした演技で実感させる。


物語は壁を超えたラブストーリーをにおわせつつ、まったく別方向へ転調する。
実のところ、女性の胸元を見る描写が、名札で知人と知ったという伏線だったのは予想通り。しかしそこから、抗議の矢面に立つ人間が交換可能な部品でしかないという問題提起が始まるとは予想できなかった。
大学の意思決定を変えるためにはいくつもの壁を超えなければならなかったのに、その最初の壁が交換可能なことで抗議を無力化されてしまう。さらに大学そのものも、国家の政策に左右されている。
全会一致を原則としつつ一丸で行動することは避ける学生たちでは、大学に対処できないのかもしれない。しかし原則を捨てては学生寮の意義も失われてしまう。


いくつもの問題提起を解消できないまま、青年たちが挫折感をかかえたまま物語は終わる。
それでも、何となくドラマが完結している雰囲気は出せていた。事態を解明する糸口をつかめないまま、それでもその場所で生きていく人々。それが今を生きる私たちの姿にも重なる。

*1:学生とともに掃除をするというWEB記事が、生活の手ざわりをつたえるものとして良いだろう。吉田寮の実態を潜入取材!京大、日本最古の学生自治寮で学生と話す | SPOT