東京郊外で団地に住み、中学校にかよう岩田広一と、おさななじみの香川みどり。そんなふたりの前に、山沢典夫という謎めいた少年があらわれる。転校生として特異な優秀さを見せる山沢に、岩田は興味をいだく。山沢と団地の奇妙な同居者たちは、違う次元の戦争から逃れてきていたのだが……
学習誌に連載された眉村卓のジュブナイルSFを、1975年にNHKの少年ドラマシリーズ枠で全10話でドラマ化。原作は未読で、主人公の性別などの設定を変更した1998年の映画版を視聴したことがあるのみ。
放送された時代は多くの番組を磁気テープに録画して放送し、終われば別番組を磁気テープに上書きして再利用していた。そうして多くのドラマのマスターソースが失われていったなかで、全話が視聴者の録画で発掘できた数少ない作品のひとつ。
リマスターなどされていないのか、VHSビデオ録画ならではの画面の上下端にゆがみがあるまま収録されている。おそらく補正されているのは開始と終了の青地に白字のテロップのみ。とはいえ映像の粗さも時代的な記録としての面白味はある。
映像面ではNHKドラマらしく露骨なまでにスタジオセットを多用。あまりセットが広くなく、ホリゾントが近いので、舞台劇的な印象すらある。団地の外観でミニチュアも使用している。台詞の多い会話劇であるところも朗読重視の舞台劇のよう。あまり好きではないが、運動会のグラウンドまでセットで描写していることには驚くし、全体が一貫した演出意図で制作されているので方向性を理解した後は安定して楽しめる。
物語はこれで終わりかと思ったところで変転していく。たとえば第6話で終了しても、あるいは第8話の前半で終了しても物語としてはまとまっただろう。しかし物語は、よるべなき「次元ジプシー」のいきつくはてまで描き切り、現実に接続して終わった。視聴しながら「次元ジプシー」は難民のメタファーにも感じられたが、あくまで当時の作り手は核戦争への恐怖を主軸にしているのだろう。
面白いのが転校生のヤマザワのキャラクターで、一見すると感情のない典型的なSF異邦人のようで、主人公が見ていない場面では序盤からたびたび感情をあらわにする。あくまで周囲と壁をつくっているだけなのだ。そんなヤマザワと主人公は隣人から少しずつ距離をちぢめていき、友情をふかめていく。
とはいえ、おさななじみの少女がヤマザワにあわい思慕をいだく序盤の描写からは、さすがに三角関係のドラマが展開するかと思った。事実、DVDに収録された特典映像の特別番組でエピローグを切った最終回を見ると、ボーイミーツガールの物語であったかのような印象になる。しかし実際に本編を全話見ると、少女はほとんどドラマの前面に出ることはなく、出番もほとんどなく、後半の別離からようやく主人公と転校生のドラマにわりこむだけ。あくまで主人公と転校生が関係をふかめるボーイミーツボーイが中心の物語だった。映画版がガールミーツガールになった理由が少しわかる。