法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「戦争映画ベストテン」の各賞への雑感

washburn1975氏による年末恒例のネット投票企画の集計結果が出ていた。まず上位50位から。
2016-12-18
今年も参加させてもらったが、票を入れた作品は『火垂るの墓』が17位、『風立ちぬ』が21位、『戦場でワルツを』が37位と、予想よりも高かった。
戦争映画ベストテン〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記
1位の『この世界の片隅に』はクラウドファンディングが話題になる以前からアニメ化の情報を追っていたが*1、残念ながら年内の鑑賞が困難だったので、選択肢に入れること自体ができなかった。
ジョバンニの島』が50以内に入っていないのはしかたないとして、投票でも見かけなかったことは残念。最近の作品で、一部地域でTV放映もされたから、もっと投票されていてもおかしくないと思っていた。


いずれにせよ、観たことがある作品から考えれば、納得の結果だと感じる。
大作映画よりも、ひとつの戦場や状況にしぼった作品か、ちょっとブラックな味わいにデフォルメした世界観の作品が強いようだ。娯楽として成立しつつ、戦争の愚かさを直視したり笑い飛ばそうとする作品が多く、それこそ戦意高揚的な映画は見当たらない。
5位の『戦争のはらわた』が思ったより高いが、いつのまにかBlu-ray化されて観賞しやすくなっていた。12位の『硫黄島の手紙』は、映画としては『父親たちの星条旗』が少し良かったと思うが、日本で投票するなら納得の順位ではある。
ひとつ意外なのは、スタジオジブリから高畑宮崎両監督が1作ずつ選ばれているのに、過去の投票企画で何度も上位に来ていた押井守関係作品が50位以内に入っていないこと。『機動警察パトレイバー 2 the Movie』くらいは顔を出しているかと予想していた。


各監督賞ではwashburn1975氏が言及しているように、複数作品が上位に入っていた岡本喜八監督の順位が上がった。
2016-12-19
キネマ旬報などでは過去に高評価だった『肉弾』が50以内に入っていなかったが、ちゃんと票は入っていたらしい。虐殺的な戦闘もある『独立愚連隊』が乾いた明るさのある『独立愚連隊西へ』より順位が高いのは、反戦要素が少ないからといって必ずしも高評価されるわけではないということだろう。どちらも良い作品ではあるが。
他に複数作品で票を集めて50以内に顔を出したのは富野由悠季監督くらい。今回はひとりの監督から1作品の投票が目立つことが興味深い。


10位にひとりだけ入れている1点映画特集では、意外なものもあれば聞いたことがないものもある。完全なプロパガンダ映画も言及的にすべりこんだり。
2016-12-20
ちなみにwashburn1975氏が反戦アニメとして言及している『おばけ煙突のうた』は、老人が少年時代を回想する中編アニメ。映像作品としては制作リソースの不足を感じさせたが、だからこそ淡々とした学習映画となっていて、それゆえつたわるものもあった。スタッフとして『Cosmic Baton Girl コメットさん☆』や『エルフェンリート』の神戸守監督が参加していたりするが、ファンサイトやwikiサイトを初めとして検索しても情報が引っかからず、インターネットの限界を示す一例といえる。


順不同賞は1点映画よりさらに未知の作品が多い。『カーツーム』等はタイトルからしてまったく聞きおぼえがない。
2016-12-21
私が実写限定で選んでおいた作品も複数あって、逆説的にアニメ限定にして投票したのは良かったな、という気分もある。
知っている作品で印象深いものとして、『誰が為に鐘は鳴る』がある。戦時中に公開されたとは思えないほど豪華なカラー作品で、冒頭のスクリーンプロセスとクライマックスの橋梁爆破でミニチュア特撮も楽しめる。主人公とヒロインは作戦を指導する余所者だったり男装しているだけの美女だったりと類型的だが、反体制運動を統率する中年男女の人物像は珍しくて、現代にも通用する感覚だと思った。

*1:たとえば2013年にアニメ版『はだしのゲン』を紹介するエントリのコメント欄で言及した。GYAOで『はだしのゲン』『はだしのゲン2』が無料配信中 - 法華狼の日記