法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』そしてテレビは“戦争”を煽った 〜ロシアvsウクライナ 2年の記録〜

2014年からつづくロシアとウクライナの軍事衝突。
ソビエト連邦からわかれても比較的に友好的だった両国だが、ともに主要メディアが国家のプロパガンダ機関となり、たがいへの敵意をあおるようになった。
そうした報道がウクライナの民衆を分断させ、ロシアの民衆を戦地へとかりたてる……


本放送は5月21日だが、深夜再放送で視聴。両国の報道を比較しながら、まぎれこんだ誤認や、知られざる記録をひろっていく。
NHKスペシャル | そしてテレビは“戦争”を煽(あお)った ~ロシアvsウクライナ 2年の記録~

15年にわたってプーチン政権の強い統制下に置かれたロシアのテレビ各局は、隣国の“内戦”に対して、政権の意向に沿った報道を一斉に展開。欧米からの“プロパガンダだ”との批判も意に介さず、連日ウクライナを非難する報道を繰り広げた。一方のウクライナでは、ロシアによる一方的なクリミア編入を機に、社会は反ロシア、愛国主義一色に染まっていく。“ロシア寄り”とされるメディアへの襲撃事件も相次ぐ中で、大手テレビ局の記者たちも率先して“愛国”報道を繰り広げてきた。

ロシアのTV局はウクライナ人のゲストを討論番組に呼んで、毒舌な司会者に非難させる。ウクライナのTV局はロシアの侵略を風刺するような寸劇で、満席の観客を笑わせる。それらの光景は、日本のTV番組との距離がどれほどあるだろうかとも思わせる。
ひとりのロシアのキャスターはNHKのインタビューに答え、現代の報道は主観でしかないこと、自分なりの真実をつたえていると堂々と答える。ひとりのウクライナのジャーナリストは、戦場で対立する両方の見解をつたえようとしてきたが、従軍取材をつづけるにつれて精神的に軍へ同化していく。


一般人でも手軽に撮影できる現代。もちろん戦闘や事件の映像や写真も無数に存在する。
しかし同じ戦場をうつしても、どちらが戦端をひらいたか、両国の報道で見解が異なる。写真や映像は事実そのものをうつすと思われがちだが、その文脈はキャプションによって左右される。
たとえば「ウクライナ民族主義者」と「過激なロシア系住民」の衝突にはじまるオデッサの建物火災。ロシア国籍のネットジャーナリストが事件後に遺体を撮影した映像なのに、ロシアのTV局ではウクライナ民族主義者が死体をあさっている光景という説明で放映された。
机にもたれかかった女性の写真が、インターネットに投稿されると妊婦の死体という解釈が拡散され、ひとりの青年を軍隊に志願させた。NHKが取材したところ、遺体は太った女性であって妊婦ではないとわかったが、それを伝えられても青年は受け入れようとしない。
インターネットが発達した現代。ロシアへわたった老父と、ウクライナで報道をつづける息子は映像で会話ができる。しかし心の壁による分断を乗りこえることはできない。


もちろん、主要メディアに報じられることがない光も闇もある。それをつたえようとする小さなジャーナリズムもそこにある。
オデッサの建物火災では、ウクライナ系とロシア系の住民が協力して建物の外に足場をつくり、上階で逃げ遅れた人々を救おうとする映像も撮影されていた。
ロシアでは政権の影響下にないインターネット放送局もあり、かつて英雄あつかいされながら忘れさられた志願兵を取材していた。


全体の感想として、情報の発信と受信に題材をしぼったことで、濃密な内容を50分の放送枠でよくまとめていた。
どこか日本の現状にひきつける部分もほしかったが、とりあえずは視聴者が補えばいいだろう。
小さなジャーナリズムの存在を知り、それを支えるのは我々の責任でもあるはずなのだから。