法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハピネスチャージプリキュア!』第43話 ぶつけあう想い!ラブリーとミラージュ!

最近は『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』で仕事をしていた畑野森生がプリキュア演出に復帰。良くも悪くも、積み重ねを無視すれば素晴らしい映像にしあがっていた。
まずアバンタイトルから普段と色調を変えた撮影に、いったん山内重保演出かと思ったが、特徴的なクローズアップや長いカット割りが見当たらなかったので*1、『聖闘士星矢Ω』の1期でシリーズディレクターをした畑野森生と思って正解。
今作には初参加ながら、クイーンミラージュの鬼気せまる形相や、水面となった戦場の描写で圧倒された。必殺技バンクでクイーンミラージュを囲う新規作画などはメインスタッフの許可か指示があってのことだろうし、もちろん作画スタッフの力も大きいだろう。


しかし映像や演技に迫力をこめるほど、敵の言葉に切実な説得力を与え、主人公の説得に圧力を感じさせるだけだった。戦い傷つきながら心情を吐露しつづけるクイーンミラージュ、その姿が気高くすら感じられた。
とにかく問題なのが神ブルーの愚かさと無責任ぶりだ。思いを受けとめられなかったためパートナーを暴走させ、しかたなく封印したまではいい。しかしそれから三百年の時間を、相手がクイーンミラージュとして復活して世界と対立してまでも、正面から向きあわなかったのは許しがたい。その挙句、戦闘と弁護を新しいパートナーに丸投げし、クイーンミラージュが説得されて初めて甘い言葉をかけるとか、まともな人間の所業ではない。いや神だけど。
その新しいパートナー、キュアラブリーの言葉も困ったもの。私もブルーが好きといい、ブルーを幸せにしたいといい、本当はまだブルーが好きなのではと問う。全ての言葉が相手の神経を逆なでするタイミングで発され、そもそもブルーに敵対した相手にかけて説得できる内容ではない。擁護の根本となるのが、ブルーが封印した箱をながめて悲しそうにしていたという証言だけなのも最悪だ。DV夫の労力を使わない表層的な優しさを高評価するようなものだ。


これまで、ギリシャ神話の最高神ゼウスは男女関係において神々で最低最悪だと思っていたし、その被害にあった女性を妻ヘラが嫉妬で追い打ちをかけるのも非道だと感じていた。
しかし女神ヘラが怒ることなく、被害者へゼウスへの信仰を持ちつづけるよう強要するよりは、まだ良かったのではないかと考えこんでしまった。
ブルーがゼウス以下の外道にしか感じられないので、浄化されたクイーンミラージュが元の関係に戻っても、ハッピーエンドに全く見えない。
ブルーに失恋したキュアラブリーにいたっては、被害を受けなくなったわけで同情する意味がないし、そもそも好きになったことが共感できないし、かといってブルーの問題を再発させたので安堵もできない。


今回の脚本は成田良美シリーズ構成だったが、シリーズのコンセプトが三角関係に向いていないと思わなかったのだろうか。
少女ばかりが矢面に立って戦う作品である以上、少女と少女が対立する時、男性は参加することが難しい。誰にも好かれるほどの魅力を描く余裕がないし、その魅力を描かないまま失敗描写を積み重ねると劇中評価と視聴者の印象は乖離するだけだ。
同じように独占欲の三角関係が描かれた『ドキドキ!プリキュア*2や劇場版『スマイルプリキュア!*3は、たがいに表舞台で思いをぶつけあう少女同士の関係だから成立していたのだ。
いや表舞台に立てなくても、せめて無力な存在なら違ったろう。同じ成田良美シリーズ構成でも、『Yes!プリキュア5』のココやナッツは、普通の少年よりも戦闘に参加できないエクスキューズが入っていた。無力ながら強敵と戦って王国を奪われたことが物語の発端であったし、少しの刺激で微力な妖精に戻ってしまっうことを何度も描いていた。日常のドラマでは、きちんと大人としてふるまおうとしていたのも大きい。
それがブルーのように、神の力をもつからと日常への介入をさけて、戦闘では少女を矢面に立たせつづけては、どうにも擁護しようがない。ブルーは批判的に描かれなければならないし、挽回する描写が難しければ少女ふたりともブルーと決別してほしかった。
それでもブルーに罪がないように描きたいなら、たとえば世界を救済するため石化して話すこともできなくなっているとか、神として戦いを放棄しているので全ての攻撃を正面から受けつづけても自分だけでクイーンミラージュに対峙するとか、戦えないなりのドラマを描くべきだった。
どうやらディープミラーが真の敵らしいので、今回をふくめて作品として挽回する展開を期待したいが……

*1:もっとも、最近の『美少女戦士セーラームーンCrystal』に連名でコンテを切った時は、特徴が感じられなくてEDクレジットを見て驚いた。

*2:言及したエピソードの感想はこちら等。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140112/1389561062

*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20141201/1417533652