法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』

スタッフリニューアル後の映画第1作として、2006年に公開された映画1作目のリメイク。ただし渡辺歩監督は、リニューアル後のTV作品でキャラクターデザインもつとめていたが、すでにシンエイ動画を去っている。
映画ドラえもん『のび太の恐竜2006』公式サイト
もともとは『野生のエルザ』のような物語を『ドラえもん』で描こうと、恐竜を育てて過去に戻すまでを描いた短編作品だった。そこに恐竜ハンターの追跡と、その攻撃で故郷から離れてしまったという問題を足し、長編ロードムービーとして発展させた。そこに最新の古生物学の知見を加え、3DCG技術と最高の手描きアニメで再映画化したのが、このリメイク作品である。


これまで何度となく言及してきたが、ブログを始める以前の作品なので感想エントリをあげていなかった。いい機会なので簡単にふれておく。
まず、スタジオジブリ出身の小西賢一キャラクターデザインを筆頭に、日本トップクラスのアニメーターが参加したことが目を引く。同時に、リニューアル前から参加していたシンエイ動画亜細亜堂のアニメーターも実力を発揮。特に、大塚正実のオルニトミムス疾走から森久司のアパトサウルス戦へのリレーは映像の快楽に満ち満ちていた。


原作や旧映画との大きな違いは、ていねいに物語を構築しようとする段取りを削って、エモーショナルの連続性を重視していること。緩急のくりかえしで旅路の長さを描くのではなく、断片のモンタージュで旅路を想像させていること。オーバーアクトな作画は、エモーションを優先して目立った一部分にすぎない。
象徴的なのが、主題歌のメロディにのせた旅立ちだ。一定時間を飛行するとタケコプターを休ませる必要があるのだが、原作ではエモーションを断ち切るように地上へ降りる。タケコプターが使えないなら歩こうとするが、のび太がすぐ疲れてしまう。準備せずに始まった旅なので食糧に不安があり、現地調達して保存食をつくる*1
渡辺監督はメロディを断ち切ることなく、連続した場面として描いていく。のび太の旅立つ瞬間はじっくり描くが、タケコプターを休ませたり歩いたりする描写は音楽にあわせて短いカットを重ねていく。台詞による説明はなく、観客の想像や記憶にまかせる。そうしてディテールの説明ではなく、体感として長さを感じさせる。白亜紀を旅する情景を重視し、ロングショットで人物を描き、ここでオーバーアクトは目立たない。


ちなみに2回にわたる地上波TV放映では、後の展開にかかわらないためか、アパトサウルス登場までを大幅にカットしている。作画が動くだけの作品と思われがちなのは、情感を重視した場面が地上波では短縮されてしまっていることもあるかもしれない。
100分の旧作に対して、新作は105分ほど。ED放映はあきらめているが*2、せめて本編ノーカットで放映されれば、より作品の真価が広く伝えられると思うのだが。

*1:緊急避難に当たりそうとはいえ、よく考えると時間改変の問題がある描写だが。

*2:しかし同じく旧作をリメイクしたリニューアル映画2作目は、やはり2回の地上波放映がありながら、冒頭で起きた問題は削ってないのにEDでの事態収拾を削ってしまって、物語展開まで説明不足におちいっていた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080323/1206317964