法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

憲法改正問題をあつかうというアダルトゲームの中二病にむせかえる

憲法九条改正恋愛AVG」というジャンルを自称し、『ディベートスクールナイン』というタイトルで、2015年に発売予定とのこと。
ディベートスクールナイン
ストーリーページを見ると、教師がディベートをはじめると決めて、護憲派改憲派にふりわけるのが発端らしい。
ストーリー - ディベートスクールナイン

ディベートとは、ある公的な主題について異なる立場に分かれ議論することをいう」
しかもわけわからんテーマ。
憲法改正問題です。特に憲法九条について改正した方がみんな幸せなのか、このままの方がハッピーなのか考えましょう!」
大和さんが改憲派で、九條が護憲派のリーダーって………

教師の台詞内の説明とはいえ、文章がWikipediaの冒頭と全く同じなのは、あまり良いことではない。
ディベート - Wikipedia

ディベート(debate)とは、ある公的な主題について異なる立場に分かれ議論することをいう(広義のディベート)。討論(会)とも呼ばれている。

それに教育においては弁論技術を育てることが目的のディベートと、一般的な議論を混同しているらしい台詞も不安をさそう*1


キャラクターページには改憲派護憲派の少女がならび、その少女を攻略していくゲームのようだ。しかし改憲派が「内向的 上流家庭 文化系 個人主義的」とあり、護憲派が「社交的 中流家庭 体育会系 全体主義的」とページ上部に書かれているのが、いきなり意味がわからない。現実の政治における志向には反しているように感じる。
各派と志向をつなげていることから、ディベート途中でメンバーをシャッフルしたり正反対の主張をおこなわせるような展開も期待しにくい。あと、「下流家庭」はいないことになっているのも気にかかる。
細かく見ていくと、主人公がさんづけで呼んだ改憲派の「大和永遠」は、「絶対★自分至上主義」として下記のように説明されている。
キャラクター - ディベートスクールナイン

Debate
戦争は人類の本能……戦争は治療法のない病気のようなもの。
それを肯定して正しく対応していきたいと考えている。

わざわざ「Debate」としていることから、本心と異なる主張をするのかと思いきや、「考えている」という表現が不安をさそう。
さらに主人公が呼び捨てにしている護憲派の「九條真」は、「Debate」という留保なく「好戦的な平和主義者」とあり、下記のように説明されている。
キャラクター - ディベートスクールナイン

Debate
熱く平和憲法の夢を語る。
戦争するぐらいなら、無抵抗で平和を訴えて「笑って死ぬ」と主張。
憲法九条は世界に誇れる思想で、人類の理想だと信じている。

デフォルメしたり装ったりした描写や設定こそ、作者の限界があらわれるものだと痛感する。
そして凄いのが中立派として設定されている主人公「伊早直樹」。その説明は、男子学生がノートに書きつらねた妄想プロフィールを読んでいるような気分にさせられる。
キャラクター - ディベートスクールナイン

本編の主人公。
剣鋒学園に通う学生にして、学園きっての変わりもの。オタク。
本気のときは本気、面倒なことは面倒とはっきりと分けながら行動する。今回のディベートにもあまり興味はない。
歴史やミリタリー、動物、プロレス、社会情勢など豊富な知識を持っているが、全てゲームで培ったもの。
どんなゲームもひと通りプレイしているが一番好きなのはエロゲ。

いくらなんでもギャグとして書いてあるのだろうが、ここだけ表現に遊びがなく、やたら能力の評価が高いため、結果としてシリアスな笑いをさそう。


そもそも女性を九条の改憲派護憲派に分類する設定からして、ひとりの男性として首をかしげてしまう。まさか大日本帝国憲法の権利状態に戻したい女性が、そこまで多数いるのだろうかと思ってしまう。
そこで気になるのが護憲派の「大前唯南」だ。同じ護憲派*2の「大前夕菜」と双子という設定なのだが。

男女同権を訴えるフェミニスト
彼女にとって、全ての人間は二つに分けられる。
女か、そうじゃないか。
そうでないやつらをゴミだと罵り、女でさえも男に媚びへつらうものはバカだと見下している。
そんな彼女が愛している人は、妹の夕菜だけ。
彼女にとって、全ての人間は二つに分けられる。
妹か、そうじゃないか。
ちなみに『元始、女性は太陽であった』とされるが、彼女に言わせれば『今も昔も太陽』である。
そして、男は月ではなく宇宙ゴミデブリ

「参謀的ポジション」なのに、同じ説明で「男女同権を訴える」「男は月ではなく宇宙ゴミデブリ」という文章が同居している頭の悪さ。いやまあ、相手の人権を認めることと、相手を嫌悪することは矛盾しないが。
しかし、「愛している人は、妹の夕菜だけ」という部分を見て、むしろ改憲派に位置するべきキャラクターではないかと思いついた。現実においても、今年に市役所へ婚姻届を出そうとした同性カップルが、憲法を根拠に不受理にされたと報じられたばかりだ。
THE PAGE(ザ・ページ) | 気になるニュースをわかりやすく

青森県青森市在住の女性2人が6月5日、青森市役所に婚姻届を出しました。しかし青森市憲法を根拠に受理しませんでした。同性パートナーの“結婚式”の例はありますが、手続きとして婚姻届を出すのはこれまでに公表された例はないとされています。

この「大前唯南」が中立きどりの主人公をふり、女性との愛をはぐくもうとする結末になれば、それなりに面白いかもしれない。そのために第二十四条に限定した改憲派になるという展開も考えられる。
ゲームとして遊んではいない状態での感想だが、主人公はキャラクターページの説明こそ面白いものの、ストーリーページの無気力ぶりは典型的すぎて魅力がない。対立する派閥の裁定者をきどるような中立派は、愚かさゆえの日和見主義者などより、護憲派改憲派の双方から手ひどく批判されるべきだと感じる。これがはてな村ならば観客席などない。

*1:ちなみに最初のティザーサイトの画像を見ると、伊達政宗っぽい鎧武者姿の少女にかぶせて、「戦争は、その経験なき人々には甘美である」という名言を引いている。http://jado-soft.com/DS9/index3.htmlさすがに戦争趣味の高揚感には距離をとるつもりらしい。少女は配色や髪型から「改憲派」に分類されているキャラクター「春野桜子」のようだ。キャラクターページに「歴女としての一面を持つ」とあり、好きな人物に伊達政宗がふくまれている。

*2:せっかくディベートする設定なのだから、別々の派にわければいいのにと思うが。