法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『“終戦”特別企画 報道ドラマ「生きろ」〜戦場に残した伝言〜』

TBSテレビが2013年から毎月1回ほど放映している特別番組枠「テレビ未来遺産」。その8月7日に放映された回は、太平洋戦争で沖縄県民が生き残るようつとめた沖縄県知事の物語だ。
テレビ未来遺産 “終戦” 特別企画 報道ドラマ 「生きろ」〜戦場に残した伝言〜|TBSテレビ
米軍の上陸直前に県知事として赴任し、わずか5ヵ月の任期ながら県民のため奮闘し、自決よりも米軍への投降をうながし、県民を邪魔者あつかいするような日本軍とも交渉をつづけ、敗戦直前に消息をたった島田叡。その足跡を生存者の証言や再現ドラマで描きながら、個々人を戦争や社会の捨石にさせてはならないとうったえっていく。


実のところ島田知事個人について知らないので、番組の評価にどれくらい妥当性があるか、どこまで再現ドラマの雰囲気がそれらしいのか、私には判断が難しかった。
ただ少なくとも、島田知事の写真と演じた緒方直人の外見は似ていたし、ロケした風景や壕内も極端な粗はない。戦争描写もまずまずで、再現ドラマとしては充分以上のクオリティがあった。特に実写映像に3DCGを上乗せしたVFXは荒っぽく、質感の面では浮きつつも、演出に応えようと冒険していて独特の迫力があった。
やや日本軍の描写は柔らかく、ドラマで登場する個々の軍人には威厳をまとわせていたものの、組織としては免罪しない。壕内で子供を殺すことを強いられたりした証言を紹介し、多くの民間人が集団自決を強いられたことも明言していた。


残念な部分として、日本が先に戦端を開いたことを明言しなかったり、県民に戦闘するよう知事が新聞でうったえたことの弁護が苦しく感じたり、といったところに問題を感じた。
まだしも後者は、島田知事を愛する県民や研究者の好意的な評価を引いているにすぎず、新聞上の言葉と証言による人物像が異なっていることもたしかで、状況にしいられた言葉の可能性はたしかに高い。
しかし前者はいただけない。特に、島田知事が食料調達に向かった台湾について、日本が統治していたという表現をナレーションが使っていたのが良くない。当時の人間の台詞ならともかく、現代視点の説明なら植民地化といった表現を用いるべきだろう。
島田知事個人が戦争そのものにはあらがわなかった限界は日本社会全体の責任でもあろうし、知られざる人物についてていねいに説明していくため焦点をしぼらざるをえない番組の限界も理解する。しかし、だからといって大枠たる戦争についての評価をなおざりにしていいわけではない。
全体としては悪くない番組だったと思うが、現在の日本で戦争を語ること自体の限界も感じる番組だった。