法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』ドラマ 東京裁判 第2話

今回は日本軍の代表的な残虐行為として、南京事件バターン死の行進の証言風景が描写された。
NHKスペシャル | ドラマ 東京裁判第2話
どちらも歴史的な事実ということは否定されない。弁護側が死者が「便衣兵」である可能性を主張する場面はあるが、だとしても実際に反撃するまでは非戦闘員だと証言者が答えて終わる。
ここでナレーションが「〜とされる」という報道間接話法とでも呼ぶべき責任回避な表現を使っていたのは疑問が残った。第1話の感想エントリで言及したように外国語版も配信されるそうだが*1、このような表現が他国で通用するだろうか。
そもそも今回の物語構成からすれば、もっとはっきり日本軍の戦争犯罪を前提視するべきだろう。全ての判事が、日本軍の戦争犯罪や侵略性は事実と認定している。もちろんパール判事もふくめてだ*2
これは事実認識で異論がないのに、「平和に対する罪」や「人道に対する罪」で裁くべきか、それとも通常の戦争犯罪で裁くべきか、という論点で意見がわれるドラマだ。劇中で事実認定が議論されるわけでもなし、争いの余地があるかのような印象はフィクションとして見てもノイズになる。


さて判事の人間模様だが、第1話での予想よりもパール判事がピックアップされていた。ただ、個人としての心情がわかるのは、インドの独立を間近に感じている描写くらい。東京裁判が事後法であるという批判がほとんどの描写をしめている。ドラマにおける位置づけは、周囲のキャラクターへ影響を与える異分子といったところ。
ここで印象深いのが、東京裁判ニュルンベルク裁判の前例にならっていると指摘された場面。ニュルンベルク裁判も間違っていたとパール判事は答える。短い場面だが、パール判事による日本の免罪を歓迎することは、ナチスの免罪を歓迎することになってしまうわけだ*3
実質的な主人公のレーリンク判事は、パール判事の主張に近づいていったり、日本のあちこちを見聞して『ビルマの竪琴』の作者*4砂丘で語らったりする。判事という立場をはなれても精力的に動いているから、ドラマとして見ばえするエピソードが本当に多い。
第1話では他の判事との会話が多かっただけのパトリック判事も、独自に判事をまとめつつ、少しずつ裁判という場の外で動きはじめる。なかなか政治劇としておもしろいし、からめ手をつかってまで目指す理想の高さも印象深い。


そしてウェッブ裁判長が、対立する判事をまとめる苦労人として存在感を増していく。
パール判事への差別的な部屋割りを変えさせたり、裁判の正当性を立証しようとして書類を書きあげたり。その書類が他の判事から相手にされなかったという知識はもっていたが、公平に判事をまとめる努力が描かれつづけただけに、味方になるはずの梅判事から真っ先に酷評されたことが哀しい。
しかも、まとめる能力がないとパトリック判事に見切られて、裏工作でオーストラリアに帰国させられてしまう場面が今回の結末だ。立場における能力の不足が、ドラマのキャラクターとしては魅力になる。オーストラリアもドラマ制作に参加しているとはいえ、ここまで味わい深い人物として成立するとは予想していなかった。

*1:『NHKスペシャル』ドラマ 東京裁判 第1話 - 法華狼の日記

*2:史実において、いくつかの証言へ懐疑的な見解をもちつつ、総体としては日本軍の加害性を認定している。パル判決再考

*3:両裁判の連続性を演出するために、戦時中の日本社会が日章旗と鉤十字をならべていた映像などを挿入すれば、もっと意図が明確になったかもしれない。

*4:塚本晋也が演じている。なるほど外国でも認知されていそうな俳優としてふさわしい。