法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スマイルプリキュア!』第37話  れいかの悩み!清き心と清き一票!!

こんな嫌な意味でリアルな選挙描写を見たくなかった……


とりあえず、ウルフルンの言動は全体的に耳を傾ける価値があった。はっきり間違っているのは、生徒会長の権限が大きいと勘違いしているところくらい。
人気取りを優先した選挙公約ですら、実は物語を通して提言内容を否定できたわけではない。義務的な宿題を出すことは勉強の必要条件ではない。他にアカオーニが公約した、ゲームやマンガを学校に持ちこむことの許可も、現代では実態として見逃されているのではないか。マジョリーナが公約にかかげた授業中の菓子にいたっては、適度な栄養補給は医学的にも妥当といえる。
バトルで負けた後にウルフルンが決戦選挙へ臨むことも、実は正しい行動だ。前体制を工夫なく継続する副会長が無投票で新会長に信任されるより、はるかに民主主義の精神にのっとっている。


逆に、最後の演説で青木が約束した利益は、どれも主観的な精神の高揚ばかり。台詞だけ抜き出して判断すると、それほど作中の理屈を制作者側も信じていないようだ。美辞麗句を並べただけの青木が勝てた理由は、画面から判断する限り、場の空気でしかない。
一方で、青木の言葉が空虚であることをウルフルンが責める台詞は、かなり的確だった。もともと青木は立候補の意思がなかったのだから、途中までは制作者の意図通りだろう。しかし、今回の物語を通して、青木が自らの空虚さを充分に埋められたようには見えない。
ウルフルンの批判に説得力があるのに、青木の主張に説得力を持たせられていない。そのため、ウルフルンの公約を夢物語にして、青木の相対評価を上げるしかなかったのだろう。結果として、二人ともひどい公約しか掲げられていないという、究極の選択になってしまっている。


以前に、『ドラえもん』のアニメオリジナル回が選挙を描いたことがある。義憤による立候補者がポピュリズム競争の土俵で戦ってしまい、当初の意義を失っていった。結末は伏線がほしかったが、風刺としての完成度は高かった。
『ドラえもん』四角いドラえもん/ガキ大将に一票を! - 法華狼の日記
それと同様に今回の『スマイルプリキュア!』も、功利主義と規範主義の対立で終わらず、それぞれを上回る第三の立候補者が生徒会長として当選するという流れでも良かった。
きちんとした成長を描けないなら、まだ今回は障害を克服させずに、シリーズを通した課題を青木に残しておくべきだった。そう考えると、当選はあくまで信任にすぎないと青木が自覚して、「喜ぶのは今後の生徒会運営で結果を出してから」という台詞を発せば、ずっと納得できたかもしれない。