法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

WPTC2010の「妨害」で韓国は批判されるべきか?

先月、テレビ朝日系列で放映されている『トリハダ秘スクープ映像100科ジテン』で、国際スイーツコンクール「WPTC」*1における日本の初優勝が話題になった。
テレビ朝日|トリハダ秘スクープ映像100科ジテン

今回は、スイーツ世界大会の密着ドキュメント!スイーツ界の日本代表が世界で大活躍!世界での熱い闘いにご注目ください。

しかしインターネット上では、アイスを固まらないように意図的に冷凍庫を開けたという韓国の描写が注目された。
はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`) : スイーツ世界大会で韓国が日本に嫌がらせ - ライブドアブログ
はてなブックマーク - 韓国がスイーツ世界大会で日本に嫌がらせ:ハムスター速報
YOUTUBEに映像を上げたり、コメント欄を通して米国へ向けて訴えるようなこともしているようだ。


まず、該当場面の映像は、下記の朝鮮日報による反論記事で確かめられる。スタジオに呼ばれた日本チームが妨害について質問されている姿も確認できる。
日방송, "제과대회서 한국이 반칙으로 일본 방해" - 조선닷컴 - 국제 > 국제 일반
スタジオに呼ばれた日本チームは質問に対して「世界大会ですので、そういうことはつきものですし」と答えており、「妨害」と断言すること自体を避けているように聞こえる。少なくとも韓国チームに妨害されたという主張はスタジオにおいて明言されていない。


次に注意したいのが、『トリハダ秘スクープ映像100科ジテン』は様々な既存の映像を選んで編集した番組ということ。基本的に番組独自の取材を行っているわけではない。
テレビ朝日|トリハダ秘スクープ映像100科ジテン

世界中から集めたトリハダものの映像を、
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WPTCについての作品制作元はFOXTVらしい。このTV局の事前知識を持っていれば、全面的な信用をすることは難しい。さらに日本のTV局が編集を加えて放映し、スタジオに参加関係者を呼んでいたわけで、一方的な内容と考えざるをえない。
コンクールを盛り上げるための障害として、韓国との衝突が素材として用いられた可能性は充分に考えられる。


実際に韓国チーム技能長からも反論があり、下記のような弁明がされている。
「我々は日本だけには負けたくないんだよ」の人の反論 : 韓国人、嫌韓を見る*2

「嫌がらせのために開けておくなんてことはあり得ない。(冷蔵庫は2組1個なので)そんなことをすれば、我々の材料も被害を受ける」
(嫌がらせをしたことを認めているかのように放送されたことを話すと)「たしかにFOXTVのインタビューを受けたが、そんな話はしていない」
「冷蔵庫を開けすぎとの注意を受けたことは事実だ。日本がコンプレインをかけたため、主催側が対応した。こういうことは往々にある。初日の競演時間が終了しても日本チームが競演場に出入りしていたことに対し、我々もコンプレインをかけ、日本も主催側から注意を受けている」(*そんなことはよくあることだ。との認識は一致してる模様)
つまり、仮に「日本には負けたくない」と言っていたとしても、「冷蔵庫のことを追及されて」なお、笑顔で答えたわけではない。というちょっと残念な(?)反論。

たしかに、ただの嫌がらせで自チームも打撃を受けるような行動をとるとは考えにくい。番組で妨害として描かれた韓国チームの問題は、せいぜい他チームも巻き込む失敗と考えるのが自然で、意図的な妨害ととらえるのは陰謀論と見なすべきだろう。
当時に書かれた日本チームの公式レポートを読んでも、他チームの関与をうかがわせる記述すらない。
http://blog.cake-cake.net/wptc/archive/217*3

だが、五十嵐が気がつかない間に、急速冷凍庫の温度が急激に上がってしまっていた。ヴァニラアイスクリームはしっかりとエッジを出すために、型に絞って冷凍してから外すことにしていたのだが、まったく固まっておらずきれいにはずすことができなくなってしまったのだ。五十嵐はシリコンの型を切り裂いて何とか形にしたが、アイスは試食に出す前に溶け出し、思ったようなきれいな仕上げにはならなかった。

そもそも、競技相手のチームと同時に冷凍庫を共有するようでは、意図しなくても衝突することがあって当然と感じる。
レポートには前後して下記のような日本チームにとどまらないトラブルも書かれており、正直なところ主催者の手際に問題があった気がしてならない。

他のキッチンでブレーカーが落ちるトラブルが頻出し、そのたびにブレーカーの修理が必要となったのだが、そのブレーカーは日本チームのキッチンの中、しかも山本が使うテーブルの下に設置されており、修理のたびに山本の作業が中断されてしまった。


韓国チームの妨害と疑われているらしい2日目の記述も、運んでいるピエスが倒れれば、そのチームにとって確実な打撃となるはずだ。これも嫌がらせのために行われたという解釈は陰謀論だろう。

隣のチームがキッチンからテーブルまでピエスを運ぶ際に、なぜか日本チームのテーブルぎりぎりを通ろうとしたのである。幸い問題なく運ばれたが、すでに日本チームのチョコレートピエスがおかれたテーブルに、運んでいるピエスが倒れることを想像して、選手だけではなくその場にいるすべての観衆が息をのんだ。
アメ細工ピエスは大観衆が見守る中、全チーム中最後に運ぶピエスとなり、それがテーブルに置かれた瞬間、大きな喝采が起こった。

しかも「隣のチーム」が韓国チームと仮定した場合*4、「なぜか」と疑問を持たれている行動に、酌量すべき事情をうかがうことができる。
下記ページで、WPTC2010で日本チームが優勝した時の映像を見てほしい。観衆が息をのんだという場面こそ映っていないが、キッチンとテーブルの位置関係など、だいたいの状況が把握できる。
http://clubharie.jp/news/10/08/20_wptc_movie.html
中ごろまで見ると、ピエスを運ぶ場面を確認できる。まず韓国チームがシュガーピエスを無事に設置して喝采を受ける場面が映った後に、日本チームがチョコレートピエスを運ぶ場面が始まる。移動中の背後には移動前の韓国チームのチョコレートピエスが確認できる。ここで日本チームは、キッチンから前のテーブルへ直接に移そうとはせず、大回りして運んだ。
より小さいピエスを作った他チームは、1人でキッチンの前から直接にピエスを移した例もある。しかし韓国チームのチョコレートピエスは大会で最も高い248cmだった。韓国チーム技能長のインタビュー記事で言及されている。
SSung LIFE : 네이버 블로그*5

だが、私が作った工芸の高さが248㎝で最も高かったし手でかもして作ったリス二匹が審査委員らの目を引いたようだ。

つまり、同じように韓国チームも大回りしてピエスを運ぼうとするならば、最短距離を行こうとして日本チームのテーブルぎりぎりを移動したとしても、無理からぬことだったのだ。しかも左右にチームがいる韓国チームが大回りしようとすれば、どちら側を回るにしても日本チームより明らかに移動距離が長くなる。移動経路で考えれば、ここでは韓国チームが日本チームより不利な状況だった。
そして韓国チーム技能長は、妨害されたと番組で描かれた初日の種目ではなく、この2日目の種目からベストチョコレートショーピースを受けている。そのことは現在も日本チームの公式ページから確認できる。
http://blog.cake-cake.net/wptc/info.html
もし移動中にチョコレートピエスを倒した場合、韓国チームは賞を取れる唯一の部門を落としたわけだ。さらに、その時点で運ばれている日本チームのピエスは、韓国チームより評価が低かったチョコレートピエスなので、日本へ対抗するため壊せば全くの逆効果だ。
採点前に運んでいるピエスが賞をとれるとは確信できないとしても、韓国チームが妨害したというには大きな疑問符がつく状況といえる。


なお、日本チームが初日に時間終了後の出入りをしていたという韓国チームの主張は、裏づけが見つけられなかった。日本チームのレポートには他国審査員からの「言いがかり」もあったが、それは型を持ち込んだ違反の疑惑であり、日付も異なる。
ただ、多くの機材トラブルがあった初日において、かなり時間が押していたらしいことは確からしい。
http://blog.cake-cake.net/wptc/archive/214

実は大会開始直後からオーブンは動かないは、IHは効かないは、ショックフリーザーは弱いわで大変な騒ぎでした。初日の皿盛りデザートは審査に大きな影響を与えるので、日本でも色々な問題を想定して準備していましたが、まさかここまで沢山問題がでてくるとは思いませんでした。
デザートはなんとか時間通りに出せましたが、練習通りにはきれいに仕上げられず・・・大会2日目、日本からの応援を待っています!

韓国チームも日本チームへの抗議を引きずることはなかったらしく、先に紹介した韓国チーム技能長のインタビューでも日本チームへの批判や謝罪どころか言及すらない。日本チームのレポートと同じく、世話になった人への謝意と、競技における製菓の成功失敗を具体的に述べているだけだ。

事実大会堂である時間制限のために私の実力の100%を発揮できなかった。長時間精魂を込めて準備した自転車も一部分だけ完成することができた。

日韓のチームによるレポートを見る限り、かなりWPTCは競技時間の制約が厳しいらしい。どこも自チームの製菓をすませることで手いっぱいなようだ。きっと差別意識で頭をいっぱいにして戦うような余裕はないのだろう。

*1:http://www.pastrychampionship.com/

*2:一部の改行を排した。

*3:デッドリンクとなっているが、WEBアーカイブ等で見ることが可能。http://liveweb.archive.org/http://blog.annie.ne.jp/wptc/

*4:レポートに明記されていない以上、反対側のイギリスチームという可能性も皆無ではない。その場合は「なぜか」という疑問は全く同感である。

*5:エキサイト翻訳を用いた。