法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ジャイアンズをぶっとばせ

動画工房制作協力回で、大野木寛が脚本。
男子チームに対抗して女子チームが結成され野球勝負をいどみ、女子の多様な、男の思い通りにならない姿が描かれる。子供向けジェンダー教材のおもむきもある話。もちろん、政治的な正しさを優先しているわけではなく、主人公の思い通りにならないコメディを描いていたら偶然そうなった、という感じの作品。
しかし、放映時間30分いっぱいの中編をもたせるためか、あるいはイジメ描写ととらえられる危険を嫌ってか、単行本7巻に収録された原作とはかなり展開が異なる。
のび太が男子チームに対抗するため女子チームをひきいるという導入から、野球を知らない女子に振りまわされるという中盤までは、ほとんど原作通り。しかし、女子による主人公批判は、原作では終盤にあたる描写。試合で女子に嫌われてサボタージュされる原作の終盤が*1、アニメでは中盤の練習中における出来事として扱われているわけだ。
試合が始まって以降のアニメ展開は、全く独自の展開だ。
大きな相違は、のび太の個人的動機で女子チームが結成される原作に対し、アニメは女子に野球で男子に勝ちたいという動機があらかじめ存在すること。
だからアニメは、のび太ドラえもん、主人公二人だけで野球する光景が涙無しに見られない。後の野球マンガ『メジャー』*2の一人野球と同じく自業自得な面もあるが、アニメでは女子の身勝手さもあり、より主人公の悲惨さが際立っている。
もちろん、アニメでは女子にも責任がある以上、のび太を悲惨なままにはせず、最終的に和解をする。きれいなジャイアンが野球を楽しみつつ敵にアドバイスを始めたりもして、原作には無い少年マンガとしての楽しさはあった。


アニメも独自の面白さはある。動画工房回らしく動きが良かったし、ひみつ道具ジャイアンズが対抗できていく過程もいい。女子の相談を砂遊びしながら待ち続けるドラえもん達の姿も笑える。娯楽らしい爽快感はアニメが勝っていたとも思う。
しかし、女子を味方につけたつもりで高圧的な態度を取り、人心を失っていく監督のび太という原作の俯瞰描写が、現在では好みかな。子供のころは、転落するのび太に同情してしまって、あまり好きな話ではなかったのだが。

*1:しかも結末では、監督のび太がチームから外されて試合が続行される。

*2:そういえば、同じ小学館のマンガだ。