法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

マイク・ホンダの右頬

全く別件でWIKIPEDIAを見た際、マイク・ホンダ関連も見てみた。
マイク・ホンダ - Wikipedia
プロフィールや来歴の項目は、比較的しっかり書かれている。
政治活動の項目でも、中国の天安門事件批難決議案への賛成に言及があるところは良い。プロフィールに書かれている日系人収容所問題に政治家として取り組み、米国に謝罪させたことにも言及があれば、なお良かったが。


だが、他の内容はかなりひどい。

しかし、米国内で批判が大きい中国の人権問題に関しては「将来の改善が見込まれる。」として、寛容的な立場を取り続けている[3]。

まず、ウイグル問題を批難する決議を共同提案している*1時点で、普通は中国に寛容とはいえない。同じ項目内ですら、天安門事件批難決議案に賛成したことが記述されている。複数人で編集するWIKIPEDIAにおいて矛盾する記述は珍しくないが、こういった個人評価的な文章はそれとわかるように区別するべきだ。
次に、ホンダ議員が中国への寛容性を示しているという情報源を見てみる*2
http://www.asianweek.com/2001_08_03/news_honda.html
実際に読むと、第二次世界大戦において中国が受けた被害についてが内容のほとんどをしめている。もちろん、過去の戦争に対する謝罪等を日本が行うように求めることと、現在の中国における人権侵害に寛容なことは、全く繋がらない。味方でなければ敵という考えは、稚拙な詭弁だ。

During the Nanjing massacre, Japanese troops tortured and killed hundreds of thousand of civilians.
南京の大虐殺の間、日本人の軍は、何百人もの1,000人の民間人を拷問して、殺しました。
But some Japanese historians claim estimations are exaggerated.
しかし、見積りが大袈裟であると主張する日本人の歴史家もいます。
Others say the atrocities never happened.
他のものは、残虐が決して起こらなかったと言います。

少なくともこの報道は、一般市民の死者が約十万人という説を取っているようだ。そしてマイク議員も反対はしていないと思われる*3。ならば、日本の歴史学でも充分に受け入れられる範囲の説だ。しかも、見積りが大袈裟であるとする歴史家は学者にも何人かいて、戦争犯罪がなかったと主張する人間がいることへの言及までしている。中国側の主張と大きな矛盾はしないが、そのまま受け入れているわけではないことがわかる。
そして問題の、「将来の改善が見込まれる。」という発言がどのような内容か見てみると……

At the same time, he recognizes that China has its own historical blemishes.
同時に、彼は、中国がそれ自身の歴史的な傷にかかっていると認めます。
China's human rights record needs improvement, he pointed out, but the United States should not isolate China because of that.
彼は、中国の人権記録が改良を必要とすると指摘しましたが、合衆国はそれのために中国を隔離するべきではありません。
"My understanding of the judicial system in China is that it is very limited," he said.
「中国での私の司法制度の理解はそれが非常に限られているということです。」と、彼は言いました。
"But with more exposure to the global community, things can change."
「しかし、グローバルな共同体への、より多くの露出に従って、ものは変化することができます。」

中国の人権問題について問われて苦しまぎれにフォローした発言かと思えば、そうではない。むしろ日本、米国に続けて中国にも人権問題があるとホンダ議員側から指摘している雰囲気で、困難ながらも問題はいずれ解決されるだろうと希望的観測がつけくわえられているだけ。前段の批判を削り、希望的観測のみを引用するのは文脈をねじまげる悪質な編集といわれてもしかたないだろう。
むしろ、こういった主張を中国への補償を提言する文脈であえて口にする時点で、ホンダ議員はかなり中国の人権問題に敏感と考えられる。


さて、慰安婦をめぐる対日謝罪要求決議案という項目が一番充実しているかと予想したが、あまり詳しい内容ではない。

議案を推進する在米韓国・中国系市民団体の主張によると、1930年代から1940年代にかけ、20万人を超える朝鮮・中国・フィリピン・インドネシア等の女性が拘束され、旧日本軍兵士へのセックス提供を強いられた[7]という。

日本政府も基本的に河野談話等で認めていることである。人数は諸説あるが、日本の歴史学者が推定する範囲内だ。

ホンダは韓国側の主張を完全に支持する一方で日本側からの反論には全く耳を貸さなかったことから、朝鮮系米市民の支持を集める一方、日本側からの支持は全く失ったという[要出典]。

「要出典」とついている文章は基本的に信用できないことをさておいても、「韓国側」「日本側」とは誰を指すのだろうか。日本外務省は従軍慰安婦問題を認めた上で、すでに謝罪しているという理由で決議案を取り下げるように活動していた。ホンダ議員は謝罪の存在そのものは認識しており、その精神が継承されていないことを問題にしている。
他に耳を貸すに値するほどの反論があったという話も、寡聞にして知らない。異論や疑問は私にもあるが、決議案の土台をゆるがすような反論はなされなかったと記憶している。もし有効な反論があれば、ワシントンポストの意見広告があれほどに持ち上げられることはなかっただろう。

一方、2007年2月25日放送の『報道2001』に出演した際も、「これは反日の決議案ではありません。あくまでも和解ということを、平和ということを意識した決議案である」、「国会を通じて、総理大臣を通じて、正式にきちんと陳謝するというプロセスが重要である」という旨を述べた。しかし、慰安婦が日本軍によって強制されたと信じる根拠については、「実際に被害者が語っている」、「償いという形でアジア女性基金が起こっていること、河野談話という形でコメントが出ていること、首相が謝っているということ」を挙げ、「実際に過去、起こっていなければ、どうしてそういうことが起こっているのか、私はそれ自体が理解できません」と述べた。

「しかし」で繋げる意味がわからない。被害者の証言が根拠にならないとでもいうのだろうか。
河野談話や首相の謝罪については、それこそ日本政府が調査の結果として公に従軍慰安婦問題を認めた発表だ。ホンダ議員に「われわれ日本人」と日本を代表して反論したいなら*4、まず河野談話を撤回できてなくてはおかしいといった指摘である。従軍慰安婦問題が全く証明されていないかのような態度でホンダ議員へ根拠を求める人々へ、議論の土俵にも上がれていないと指摘する端的な批判だ。すでに日本政府が問題を認めている以上、問題がなかったと主張する政治家こそ根拠を提出する必要がある。


反日団体との繋がりという項目もある。
しかし、そもそも献金を受けている「世界抗日戦争史実維護連合会」が反日団体であるという根拠はWIKIPEDIA内に書かれていない。「抗日戦争」は中国において日中戦争と同じような固有名詞であり、抗日を目的とするという意味はない。政治活動に「2004年世界各地で反日運動を組織した中国共産党系機関である。」と書かれているが、これも脚注がついていないし、反日運動の具体的内容も書かれていない*5
ちなみに編集ノートを見ると、根拠らしきものが書かれていたが……

今回の編集分ソースhttp://foreignaffairs.house.gov/110/hon021507.htm と2006年3月7日の産経新聞東京朝刊記事「南京攻略描く米映画制作情報 在米反日団体が昨年流布」から「在米中国人を主体とするALPHAは活動目的について「日本は侵略や虐殺に対し公式謝罪も賠償もしておらず、その実行を求める」としており、中国当局が関与する「世界抗日戦争史実維護連合会」傘下にある。日本政府や企業を常に糾弾し、事実に反する主張で日本を攻撃する点では明確な反日団体といえる。 」以上--Purplerain 2007年3月8日 (木) 00:13 (UTC)

産経と同じ感覚で反日と考えているらしいことが判っただけだった。


最後に、脚注を見て感じたが……情報源に産経新聞が多すぎないか。
けして有力新聞ではなく、偏向していると見られてもしかたない*6情報源が3/14というのは気持ち良い眺めではない。それも従軍慰安婦問題にからむ後半に集中しており、実質的な比率はさらに高いわけで。


なお、ノートを見れば私の疑問とも重複する指摘がすでに複数なされている。編集に参加しているpr3氏のブログでも、マイク・ホンダ議員をめぐる様々なデマが細かく指摘されている。
黙然日記(廃墟)

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070630/1183158844

*2:引用では、エキサイトでWEB翻訳した文章を対照する。翻訳は全くの不得手なので、全く手を入れていない。翻訳内容の正確性は個々で要確認のこと。

*3:WIKIPEDIA来歴、1999年8月下旬の「カリフォルニア州議会が、日本政府に対し、南京での三十万人虐殺や慰安婦問題などの第二次大戦中の戦争犯罪に対して明確に謝罪し、犠牲者への賠償をすることを求めるマイク・ホンダ提出の決議案を採択。[13]」「『産経新聞』(1999年9月4日付) 東京夕刊「異見自在」」と、少し矛盾するようではある。どちらかが誤りか。

*4:報道2001』においてホンダ議員へ質問したアナウンサーの枕詞。聞いていて耳を疑った。

*5:反日デモに対して非暴力を説いたり、昔から日本の兵器産業をになっているという理由で三菱商品をボイコットする運動をしていたようだ。

*6:RAAに関する記事で、誤報もしくは捏造といえるほどの誤訳をしている。