法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』

神話的都市サンクチュアリでの陰謀劇と、ヒマラヤ山脈における謎の赤子の救出から数年後。財閥令嬢の城戸沙織が、空港に向かう橋上で襲撃された。
城戸を襲うサンクチュアリの刺客に対抗するように、謎の少年たちも現れる。少年たちは、女神アテナの化身たる城戸を守る戦士、聖闘士であった……


車田正美による少年漫画を原作に、2014年に東映が制作した3DCGアニメ映画。監督のさとうけいいちは、同じ東映で長編3DCGアニメ映画『アシュラ』を2012年につくった経験がある。

かつて玩具が大ヒットして、東映によるTVアニメは世界的に人気。映画公開前の2012年から2014年までアニメオリジナルの後日談として『聖闘士星矢Ω*1も制作放映された。
残念ながら『聖闘士星矢Ω』は序盤の半年で海外展開が終わったらしいが、この映画は各国で公開されて中国やラテンアメリカで日本を超える興行収入をあげたという。
anime.eiga.com

2014年に劇場公開された「聖闘士星矢 Legend of Sanctuary」の全世界興収は1715万ドルだが、このうち約40パーセントにあたる693万ドルがラテンアメリカである。日本の興収の3倍以上だ。

事実、あくまでファンムービーとして見れば楽しい作品ではあったし、現代の3DCGアニメとして見ごたえある映像にはなっていた。


物語は、城戸沙織がアテナとしてサンクチュアリに帰還するまでを約一時間半でまとめている。
何も知らない城戸沙織を守るため五人の青銅聖闘士が集まる前半と、十二宮の黄金聖闘士を次々に乗りこえていく後半に再構成。城戸財閥が多数の青銅聖闘士を育成して内部衝突がつづくパートは完全に削除され、白銀聖闘士という中間階級も説明されない。
そこでギリシャの都市とは異なる、明らかに神話世界の都市サンクチュアリが決戦の舞台となる世界観が理解しづらかった。移動の途中経過をごまかし、地理的スケールがはっきりしない。たとえば山脈から登る雲に隠された文明未踏の世界だとか、あるいは違う次元にある都市ということを超常的な移動描写で説明するとか、もう少していねいに表現してほしかった。
城戸沙織が傲慢な令嬢ではなく、やや一般人に近い性格になっていることで、巻きこまれていく前半は魅力を感じづらいのも残念。原作通りの長髪が、中途半端にフォトリアルな3DCGでは不自然に感じられたのも難だった*2

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城戸沙織が冒頭からどのように育ったのか、終盤の回想でますますわからなくなったのも良くない。たとえば幼い箱入り娘と孤児の出会いのように回想すれば、むしろ理解を助けてくれたと思うのだが。
ただ途中から髪型をショートカットにしてからは、3DCGキャラクターとしての不自然さは減じた。


原作を再現したアクションシーンは、力は入っていてもキャラクターの少なさもあって印象が弱い。見ごたえあるのは映画オリジナルのシークエンスだ。
青銅聖闘士の紹介をかねた橋上の攻撃は、広々とした空間で激しいバトル。海上の橋なので3DCG背景の負担も少ないだろうし、キャラクターの位置関係もわかりやすい。自動車がいきかうフォトリアルな世界から、巨大な魔法陣から聖衣があらわれる神話世界への移行をビジュアルで表現できている。
蟹座の黄金聖闘士との戦いは原作に近いが、ミュージカルにすることでアニメとして楽しさが増している。カラフルな仮面がならぶ情景がシュールで悪魔的*3

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最終決戦も3DCGならではの立体的な空間をつかった派手なビジュアルは楽しい。日本のCG技術でもここまでできるという凄さがあった。

*1:蠍座がどちらも女性に変更しているところが面白い。残念ながら映画はキャラクターデザインのバラエティを出すくらいの役割りだったが、『Ω』はエピソードをつみかさねて家族のなかで娘が犠牲になっていく現代的なドラマになっていた。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:開始11分33秒ごろ。

*3:開始47分45秒ごろ。