法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『夜は短し歩けよ乙女』

京都。後輩の女性に恋をした男が、こっそり外堀をうめながらも、なかなか動きがとれないでいた。そして男は酩酊した後輩を追いながら、めまぐるしい一夜を体験する……


湯浅政明監督による2017年のアニメ映画で、オタワ国際アニメーション映画祭グランプリを受賞した。森見登美彦の原作小説やコミカライズは未読。

同原作者と同スタッフによるTVアニメ『四畳半神話大系』から直接つながる映像化かと思いきや、TVアニメと同時期に進めた動きは一回つぶれて、後からもちこまれた仕事だという。
一年のような一晩がギュッと90分にー「夜は短し歩けよ乙女」湯浅政明監督インタビュー(前編)|Nizista (ニジ★スタ) - オタクカルチャー専門WEBマガジン

四畳半神話大系』をやっているとき、それがわりといい感じだったので、次は『夜は短し歩けよ乙女』があるかも、という話があったんです。それで(脚本の)上田さんと準備まではしていたんですけど、それがなくなってしまって。そのあと、今度はどこかでやるらしいという話を聞いたり、あちこち巡り巡っているなと思っていたんですが。また僕のところに話が来て、またか!と(笑)。

物語について正直にいうと、シャラクサイという印象がぬぐえない。裕福で余裕ある古都のエリートな若者たちの恋愛模様を見せられたところで、共感も憧憬もいだきにくい。
男が女へ一方的にアプローチした果てに幸福をつかむ構造も気にかかる。身勝手さを批判するエクスキューズはちゃんとあるものの、群像劇のわりに関係性に多様性が足りない。なんとか女装でひねりを入れたかと思えば、その関係性は消されて終わる。
本筋のラブコメにしてもストレートで、もっとアニメらしいフェティッシュな物語になりそうなところ、興味深いディテールはディテールで終わり、良くも悪くもシンプルにまとまった。


とはいえ、日本のアニメを脱ブラック化しようとしている新興会社サイエンスSARU*1の試みの成果物として、興味深く楽しめたことも事実。
手法そのものは全体として湯浅監督の過去作品の範囲内で、それゆえ肩の力が抜けた見やすさがある。一夜で四季をめぐるあわただしい物語だからこそ、シンプルな絵作りにするという判断は間違っていない。
結果として目を引く作画は少なく*2大平晋也コンテの冬パートの嵐すら過去の仕事を超える驚きはないが、物語にそって映像の質を変えて、ちゃんと映画らしく全体がコントロールされている。
リピート作画をギャグに使ったり、背景動画で画面全体を動かすアクションの果てに、ひとつの恋愛活劇がミュージカルで最高潮に達する。リップシンクの音ハメが心地よい。

*1:『クローズアップ現代+』2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働” - 法華狼の日記

*2:1時間7分10秒ごろ、室内で女性が巨大なボールクッションをはずませるカットは芝居の情報量が多く、ふしぎと印象に残った。FLASHで中割りをおこなう試みをしている作品なのに、ここだけロングショットで全原画のような動きをしている。