法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』ロボット革命 人間を超えられるか

等身大スコープドッグを制作した現代美術家の、人が乗り込めるオリジナルロボットの最新作「クラタス」から導入。多脚型をふくむ人型ロボットの現在と未来を追う。


まず、クラタス制作者が無邪気な口調で軍事用途を言及した冒頭からして、編集したスタッフの暗示を読むべきだろう。
具体的に想定されるヒューマノイドの用途として、このドキュメンタリーは原発事故と軍事目的の二つを提示する。そしてその二つの用途が密接に関連していることを、災害事故を想定した多目的ロボットコンテスト「ロボティクスチャレンジ」計画で描き出す。コンテスト自体がアメリカ国防総省の肝いりということもあるし、実際に日本の技術者がその懸念を指摘する場面もある。
そもそも、どちらの用途に向かうにしても、人間を幸福にするという明るい内容ではなく、せいぜい人間の痛みを軽減させる目的でしかない。それは、アシモの技術を福島原発へ投入しようとしている本田技研の技術者が口にした「減災」という言葉からもはっきりしている。


他にも、明るく描かれた表層と、その情報から読み取れる深層が相反している場面が多い。
現在進行中の出来事として、より人型に近くなった工業用ロボットが、人間の労働力にとってかわりつつある現場を紹介する。現場の声は肯定的なものを採用しているが、ロボットは賃上げも休みも求めないといったナレーションによって、暗に人間の労働力が経営者に好まれないことを指摘している。
逆に、ヒューマノイド研究で日本が最先端にあると何度もナレーションされながら、すでに不整地で活動できるロボットを開発しているボストンダイナミクス社によって、まだアシモは実用にたえないと指摘される場面もある。
そして番組の最後でも、ほぼ完成していたアシモ脚部の技術を転用したロボットアームが、事故収束の遅れによって計画変更が余儀なくされていた。


こうしたディストピアめいた未来像が、川井憲次BGMと、林原めぐみナレーションで、静かに視聴者へ浸透していく。
全体的に、ドキュメンタリーとして面白くはあった。個人的な趣味嗜好としても、さまざまなロボットの現在形を映像で見られたことも嬉しい。個人的に、かつて思いついたロボットSF設定で、核戦争後に生き残ったシェルターを点々と移動するという世界観を思い出したりした。
ただ、表層では語られていない情報とつきあわせ、さらに編集意図を深読みして、はじめて面白味を感じられる描写が多すぎたようにも思う。