法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『坂の上の雲』第5回 留学生

第一部、とりあえずの結び。
まず、冒頭の喀血する正岡子規が良かった。映像自体は先週に見ていたが、ナレーションのかぶせかたが巧みで、物見遊山な従軍取材という言葉が全く違った味わいを持つ。前回の感想では能天気な取材に終始してほしかったように書いたが、今回の描写と合わせて見るならば前回の描写で正解だ。
故郷へ戻った秋山真之正岡子規が対話する場面も同様。台詞では史実や小説を踏まえつつ、前回の悲劇を背景に描くことで、深みある立体的な描写となっている。


そして各国へ派遣される駐在武官へと物語の視点は移り変わる。ロシアでは古典的で淡いラブストーリー、アメリカでは日露戦争の雛形となる米西戦争が描かれた。特に面白いひねりがあったわけではないが、キャラクタードラマに乗せて当時の世界情勢を手早く見せ、歴史物として最低限の解説をすませていた。
閉塞作戦の効果から、失敗した理由もわかりやすく映像で見せられる。さらに日露武官の対決という形で、ロシアが作戦を採用しなかった相応の理屈も見せ、それをさらに超えた秋山の有能さも見せる。ドラマにおける日露戦争の前振りとしては充分だ*1
しかし、今回のナレーションは、やたら大袈裟な形容を好む司馬遼太郎の悪癖が出ていて、少しばかり鼻白む場面も多かった。主人公を形容する時に「最も」という言葉を使うのは、やはり恥ずかしいよ。


また、中盤までの物語進行は悪くなかったが、最終的なしまりは良くない。第二部の放映が予告されているとはいえ、打ち切りのような結末と感じてしまった。せめて誰か一人のドラマくらいは完結してほしかったところ。
たとえば、ロシアに駐在武官として渡っていた広瀬が女性と別れる場面を、ドラマと違って結末に持ってくるとか。主人公三人の存在感は薄れるかもしれないが、第二部以降を予期させる描写となったと思う。
あるいは、今回の流れを受けて、軍人らしく正義ではなく大義で動くことを秋山真之が決める場面で終わっても良かった*2。軍人となって人が変わったと正岡に指摘される序盤の意味も、明瞭になるだろう。


映像面では、些細なミスが目についた。今に残る建物だからと道後温泉でロケしたのは良いが、あからさまに現代的な姿なのが困りもの。最低でも、プラスチック製にしか見えない雨樋は撮影時に取り外すか、CGで修正するべきだった。
巨大な汽船が進む姿や、米西戦争を戦う艦隊の俯瞰3DCGなどは、ドラマレベルとして充分によくできた特撮だったが……

*1:史実における閉塞作戦の評価は微妙だが、巧く映像化すれば良い見せ場になるだろう。

*2:ロシアとの対決を予感させる台詞やナレーションこそあったものの、日本がロシアと戦いたがる正義は描写されていない。それでいて、閣妃暗殺事件のように朝鮮がロシア寄りになる原因は明示しているから、かなり日本は身勝手な侵略者然としている。せいぜい描かれるのは、日本の権益を妨げた三国干渉を利用して、より巧みにロシアが権益を得たことの批判。つまりは悪党同士の批難合戦にすぎず、それを主人公の一人である秋山真之が行うわけだから、感情の置き所がない。史実通りといえばそれまでだが、ドラマとしては日本人が自嘲するような場面か、被侵略者の立場にある者が双方を批判するような場面が、どこかにほしかった。