法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『GOEMON』

日曜洋画劇場の短縮版を視聴。真面目な話、映画『梟の城』よりよほど良かった。
少なくとも『CASSHERN』と比べて、できることと見せたいことと見せるべきことの判断が的確となっていて、和風ファンタジー戦国映画として楽しめる内容になっている。
もちろん、ひどい部分をあげればきりがない作品だが、今回は娯楽として成り立ちつつ、主題も上滑っていない。機会があれば全長版を見たいと思うくらいには楽しめた。


まず、CG特撮のクオリティは高くないが、その非現実性を逆手にとるかのように主人公はスーパーマリオのようなゲームっぽいアクションで障害を攻略していく。敵が投げて壁に刺さった槍を足がかりに城を登るとか、ガトリング砲を発射状態で落下させるとか、マンガなリアリティレベルで統一されているので、そうと割り切って見れば悪くない*1
生身同士の殺陣は全く進歩していないが、下手な殺陣を延々と見せていた『CASSHERN』と違って短くすませ、ほとんどのアクションはCG特撮にたよっていたので許せる。俳優の身体性は描かれていないも同然だが、監督の演出能力や技術力を考えればむしろ正しい判断だ。
舞台背景も、重苦しいばかりだった『CASSHERN』と違って物語に要請された場面ごとに異なる色調とデザインが用意され、世界の広がりを感じさせつつ、人物の位置関係や物語の経過がわかりやすい。


物語は古典的な忍者作品を思わせて、これが意外と悪くない。まだ台詞でテーマを語る悪癖は残っているものの、驚くほど史実の流れを踏まえつつ意外性や因縁を演出している。
明確な行動動機を持って行動しながら好感が持てる主人公を作った上で、問題点があることも作中できちんと批判させる。他の登場人物にも役割がふられ、見せ場がある。そして不意にマンガ的な行動の奥から複雑な迷いをのぞかせる。「絶景、絶景!」や「戦いを終わらせる」という使い古された台詞も、様々な意味がこめられ掘り下げられていく。
秀吉時代が終わった後に家康暗殺が描かれ、蛇足になるかと思えば、それなりにきちんと描かれた主題の説得力をさらに高めたところも良かった。意外な人物の再登場を通して、ありふれた暴力否定を描きつつもうまく単純化を回避している。

*1:ただし終盤での多対多戦闘は全く駄目で、監督が大規模な戦闘を、ひいては戦争そのものを描くことが無理ということを再確認させてくれた。