法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『戦場のメロディ〜108人の日本人兵士の命を救った奇跡の歌〜』

フジテレビ系列の土曜プレミアム特別企画として9月12日に放映されたスペシャルドラマ。
戦前の第一回紅白歌合戦でトリをつとめた渡辺はま子、その戦後における代表曲「あゝモンテンルパの夜は更けて」が生まれたいきさつを、元兵士らの証言や資料やドラマをまじえて再現する。
主人公を演じるのは薬師丸ひろ子。かつて一世を風靡した彼女だが、個人的にはひさしぶりに見た。劇中の渡辺はま子に重なって見えるのは気のせいか。


物語は要するに、フィリピンで収容されていたBC級戦犯を処刑から救うため、歌を作って日本世論を喚起し、さらにはフィリピン大統領の心まで動かしたという美談。
しかし日本が国際社会において復帰するとともに戦犯の存在を忘れた当時と、その歴史を知らない現在が、作内外で重なることは注意していいだろう。捕虜が作詞作曲した歌で世論が喚起された歴史を、私も知らなかった*1
戦中に戦意高揚曲を歌って一線を退き、戦後は売名行為と指弾されながら捕虜の歌を唄い、長く交流を行ったという歌手、渡辺はま子。予算が削減された復員局で孤立しつつも、フィリピンの戦犯を救うことに尽力した事務官、植木信吉。戦犯の処刑に立ち会い続け、任を解かれてからも仕事を続けた教誨師、加賀尾秀忍。それぞれの行いは間違いなく賞賛に値すると思う。
彼らの交渉によって、家族を日本軍により虐殺されたフィリピン大統領エルピディオ・キリノは戦犯を釈放した。そのことについて、その孫エドワルド・キリノが「祖父はフィリピンの若者たちに許すことの大切さを伝えたかったのだと思います 許すこと そして 愛すること… それが両国の未来に繋がると考えたのです」と語ったことも感動的だ。


ただ、「指さし」だけが決めてとなって死刑判決がくだされたかのような解説は誤解を生むし、フィリピン収容戦犯の釈放には歌以外に様々な要素があったことも説明するべきだったと思う。
フィリピンで日本軍による虐殺が行われたことを番組開始30分をすぎてようやく解説しつつ、そのフォローがほとんど描かれなかったのもいただけない。虐殺が行われ、収容されている戦犯が冤罪なら*2、生死は別としても他に虐殺者が存在するはずだ。
もちろん、どちらも先に引用したエドワルドの発言でフォローされているという見方はできる。それでも個人的には、ドラマの本筋と関わりないとはいえ、よりくわしい言及がほしかったということ。

*1:どこかで知識として目にした可能性は高いが、意識にのぼらせたことはなかった。

*2:処刑された14人の半数以上が「無実だったという」と番組で語られていたが、その根拠が示されていないこともおさまりがわるい。冤罪と無実は少し違う。